2025年夏号表紙

浸出水中のPFAS問題と対策案

1.はじめに

福岡大学名誉教授<br />
樋口壯太郎 氏 福岡大学名誉教授
樋口壯太郎 氏

 最近の廃棄物を巡る大きな課題の一つに有機フッ素化合物問題が挙げられる。

 有機フッ素化合物は、耐熱性、耐薬品性などの特性から産業界で広く使用されているが、その安定性から廃棄物の処理が難しく、化合物によっては有害とされ規制されているものもある。特にポリフルオロアルキル化合物(以下、PFAS)による地下水、河川水等の汚染が顕在化している。PFASの中でも、ペルフルオクタンスルホン酸(以下、PFOS)とペルフルオロオクタン酸(以下、PFOA)は幅広い用途で使用され、PFOSはコーテイング剤、泡消火剤、撥水剤等に、PF0Aは泡消火剤、半導体、腐食防止剤等に使用されていたが、POPs条約では製造、使用、輸出入が禁止され、化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)においても製造、使用が制限されている。しかしこれまでに使用されたPFASやPFOSを含む廃棄物の処分により河川、地下水、最終処分場浸出水等において、一部、高濃度で検出されている。このため、これらの対策が求められている。

2.管理型最終処分場におけるPFASの挙動 1)

 PFASは人体に対して甲状腺疾患、肝疾患、血中コレステスロールの上昇等の影響を及ぼすとされ、2020年、水道水、地下水の目標値として50ng/Lが暫定目標値とされた。表-1に諸外国のPFASの目標値を示した。PFASは自然界で分解されにくく。水溶性であるため過去に埋立処分された廃棄物からも浸出水や処理水として一般環境中に流出している。今回、遮水工や浸出水処理施設を備え、原水から処理水の収支がとりやすい、産業廃棄物管理型最終処分場浸出水を対象に、PFASの調査を行い、浸出水処理プロセスにおける挙動を調査検討した。

 

表-1 水道中の PFOS及びPFASに関する各国の目標値 1)

2-1 調査対象最終処分場

図-1 調査対象最終処分場概要1) 図-1 調査対象最終処分場概要1)

 

 調査対象とした管理型最終処分場は被覆型で埋立面積4万㎡、埋立容量は84万㎥(内、廃棄物60万㎥)、で2014年から埋立を開始し、現在、約37万㎥(廃棄物)を埋立処分している。2024年までの埋立物およびその比率は図-1に示すとおりである。浸出水処理施設能力は60㎥/日であるが、現在、埋立進捗状況から30㎥/日を稼働させている。処理方式はCa除去、生物処理、凝集沈殿、砂ろ過、活性炭吸着後、電気透析方式による脱塩処理を行い、処理水は全量、場内の人工散水用水として利用している。

2-2 浸出水処理プロセスにおけるPFAS濃度等の分析

 浸出水原水、処理プロセス水のPFAS等の分析を行った。図-2に調査位置、表-2に分析結果を示した。PFAS分析方法は水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準等の施行等について(令和2年5月28 日)、環水大水発第2005281号、環水大土発第2005282号付表1に掲げる固相抽出-高速液体クロマトグラフ・タンデム質量分析法により実施した。PFASはPHOA,PHOS,およびPFHxSについて、それぞれ直鎖体および分岐異性体について分析し、その和を分析値とした。定量下限値はそれぞれ1ng/Lであるため、それぞれの定量下限値は2ng/L、PFASとしての定量下限値は今回PFHxSを加えたため6ng/L。残留キレートは公定分析法がないため、銅比濁法で分析した。その他の項目についてはJISK0102により分析した。

図-2 水質調査位置図1) 図-2 水質調査位置図1)

(1)PFAS

 PFASについては原水145ng/Lであった。Ca除去後、95ng/L,生物処理、凝集沈殿後には33ng/Lに低下し、活性炭吸着により定量下限値の6ng/L未満となっていた。すなわち凝集沈殿により汚泥に移行し、残りは活性炭により吸着され、水道、地下水の暫定基準値50ng/L以下となっていた。汚泥濃縮貯留槽の上澄水は50ng/Lで原水槽に返送され、脱水汚泥は埋立地に返送され埋立処分されていた。また本施設では規模が小さいため、吸着飽和に達した活性炭は埋立処分されていた。

 

 

表-2 水質分析結果1)

(2)その他の項目

 その他の項目は所定の処理目標値まで処理されていた。残留キレートについては、ばいじんが埋立されていたが検出されなかった。

2-3 埋立地におけるPFAS挙動

 水質分析結果よりPFASの浸出水処理施設ならびに埋立地における挙動と収支を図-3に示した。

 

図-3 管理型最終処分場におけるPFASの挙動と収支例1) 図-3 管理型最終処分場におけるPFASの挙動と収支例1)

原水中のPFASはCa除去汚泥として1,794㎍(41.2%)、生物処理および凝集沈殿汚泥として1,731㎍(39.8%)、併せて81.0%に当たる3,675㎍が汚泥として引き抜かれ、汚泥濃縮貯留槽にて上澄水として40㎍(0.9%)、脱水により脱水ろ液として315 ㎍(7.2%)の計355㎍(8.1%)が原水槽に返送される。これにより脱水汚泥中には3,170㎍(72.9%)のPFASが含まれ、埋立処分されることになる。ただし脱水ろ液は上澄み液と同濃度と仮定した。活性炭に吸着された825㎍(19.0%)は本施設においては埋立処分されているので、管理型最終処分場におけるPFASは浸出水処理施設および埋立地内を循環しながら徐々に濃縮されていると推察される

3.汚泥対策

図-4 Ca凝集沈殿と分散剤処理概念図 図-4 Ca凝集沈殿と分散剤処理概念図

 図-3より、PFASの73%は汚泥に移行し、埋立地を循環しているので、PFAS対策を実施する場合には汚泥対策が重要となる。汚泥の内、Ca汚泥は発生量の70%を占めている。Ca汚泥の発生抑制のため、一部の浸出水処理施設で用いられているCaスケール防止剤(以降、Ca分散剤)を用いて、汚泥発生抑制が可能か実験した。Ca分散剤は従来からボイラー、冷却水系機器、焼却施設等で使用されている。Caスケールの場合、Ca2+と炭酸イオン(以下、CO32-)の結合により、炭酸カルシウム(以下、CaCO3)を生成し、Caスケールとして様々な障害をもたらせる。アクリル酸系ポリマー等のCa分散剤を添加すると、陽イオンと陰イオンの結合を阻止し、各イオンは水中で安定化し、スケール析出が抑制される。また析出したスケールを分散化する機能を有する2),3)。図-4にそのイメージを示した。今回実験に用いたCa分散剤はクリタ工業のカレントアップT-203を用いた。浸出水にCa分散剤1mg/Lを添加したのち、以降の処理実験プロセスに移行したがスケール生成やスケール障害は見られず、ほぼ原水中のCa2+濃度のまま、処理水中に含まれていた。

4. Ca分散剤の処理プロセスへの影響

 浸出水処理施設におけるCa除去は、処理プラントの配管やポンプ、生物処理ろ材等へのスケール障害を防止するうえで、必要不可欠な設備である。このため、Caスケール防止剤によるCa対策を行った場合の以降の処理プロセスへの影響の確認実験を行った。PFASは電気化学的処理により分解されることが確認されている4)、5)。さらに筆者らは電気化学処理によりCOD,T-Nおよび残留キレートについても分解できることが可能で、生物学的硝化脱窒素、凝集沈殿、砂ろ過、活性炭吸着工程を省略することが可能であることを実浸出水を用いた実験により、確認している6),7)。そこでCa分散剤により、Ca対策を行った浸出水を直接、電気分解および電気透析膜にかけ、その影響確認を行った。その結果を表-3に示した。これより、Ca除去方式として凝集沈殿法、Ca分散剤の双方とも、電気化学処理によりPFASをはじめとするCOD、T-Nの完全分解ができた。Ca分散剤を用いた場合のCa2+は電気分解の場合は、原水とほぼ同じ濃度で、分散効果を維持したまま処理水に移行した。脱塩処理を行う、電気透析膜処理の場合はイオン交換膜への影響はなく、Caは脱塩水に10mg/L、濃縮塩水に2,040mg/Lが移行した。

 

 

表-3 Ca対策と電気化学処理によるPFAS等分解結果1)

5.現時点におけるPFAS対策

5-1 既存施設

 既存施設の多くがCa除去設備および活性炭吸着設備を有している。Ca除去設備の凝集沈殿設備を休止し、原水槽にCaスケール防止剤1mg/L程度を注入することにより、汚泥発生量の大半を削減することが可能となる。PFASの一部は生物汚泥、凝集沈殿汚泥として、脱水後、埋立処分されるが、浸出水への影響は約70%軽減することが可能となる。PFASは活性炭吸着設備で吸着処理することとなるが、廃活性炭は再生または焼却することが望まれる。脱塩処理設備を有する場合は原水槽にCaスケール防止剤を注入し、Ca除去設備から凝集沈殿設備をまでをバイパスして、電気透析設備にかけることにより、COD,T-N,PFASの分解が可能となる。これにより汚泥処理設備も縮小または廃止することが可能となる。

5-2 新設浸出水処理施設

 浸出水処理施設を新設する場合は原水槽にCa分散剤を注入したのち電気分解装置のみで処理が可能で、必要に応じてバックアップとして活性炭吸着設備を設置する。脱塩を行う場合も原水槽にCa分散剤を注入したのち電気透析装置のみで必要に応じてバックアップとして活性炭吸着設備を設置する。濃縮塩にはCaが流入するので、エコ次亜等に利用する場合は再度Caスケール防止剤を注入するかCa除去を行う。

5-3 安定型最終処分場

 安定型最終処分場には原則、浸出水処理施設がないため、PFAS規制が実施された場合、新たに浸出水処理施設を設置する必要がある。活性炭吸着設備を設置の場合には廃活性炭の焼却処理、または再生が不可欠となる。電気化学処理で対処する場合には浸出水中の電解質として塩化物イオン(以下Cl-)、硫酸イオン(以下SO42-)等の存在確認を行う必要がある。一つの指標として電気伝導率として5.0mS/cm以上が必要となる。電解質が不足する場合は必要に応じて電解質として工業塩等の添加が必要となる。

6.おわりに

 最終処分場浸出水にPFAS規制や処理要望が出た場合の現時点における対策案を提案した。管理型最終処分場についてはCa汚泥対策と多くの施設に備えらえている活性炭吸着により、対応が可能と考えている。安定型最終処分場については活性炭吸着設備の設置が緊急対策として考えられるが、高濃度(103~104ng/Lオーダー)の場合には活性炭に加え廃活性炭の焼却処理費が加わるため、電気化学処理とのコスト評価が必要になる。また鉛直遮水等による浸透防止対策も必要となる。新設の場合にはCa分散剤+電気化学処理の導入、安定型においては遮水工設置の義務化、もしくは安定型の廃止を含めた議論が必要になると考えられる。いずれにしてもPFAS問題により浸透水および浸出水処理システムの見直しが必要になると考えている。

参考文献

  • 1)樋口壯太郎, 劉佳星、兪霊傑、為,田一雄:最終処分場におけるPFASの挙動と対策に関する研究、都市と廃棄物、Vol.55,No.5 ,pp47-54(2025.5)
  • 2)日本触媒HP:https//www.shokubai.co.jp/ja/lp/water-treatment
  • 3)栗田工業薬品ハンドブック:第4章スケールとスケール防止、pp41-67,栗田工業㈱(1995)
  • 4)劉佳星、重松幹二、為田一雄、樋口壯太郎:浸出水中の難分解性有機物の電気分解処理に関する研究、廃棄物資源循環学会論文誌、Vol.33,pp235-241(2023)
  • 5)劉佳星、ブラーツ湊初枝、為,田一雄、島田雄太郎、樋口壯太郎;電気分解法、電気透析膜法によるPFAS汚染地下水の浄化、第30回地下水・土壌汚染とその防止に関する研究集会(2025)
  • 6)劉佳星、兪霊傑、潘剣磊、為,田一雄、樋口壯太郎: 浸出水の電気的処理に関する研究、第34回廃棄物資源循環学会研究発表会講演原稿2024,pp477-478(2023)
  • 7) 劉佳星、兪霊傑、為,田一雄、樋口壯太郎;浸出水の電気分解処理に関する研究,第46回全国都市清掃事例研究発表会講演集、 pp271-273(2025)

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