2024年春号表紙

能登半島地震災害廃棄物における産廃処理業者の役割

本年1月1日の午後、石川県能登地方を震源とする地震により、能登半島を中心に最大震度7を観測するなど強い揺れが観測され、住宅の倒壊や火災などにより多くの方が亡くなられたほか、水道、道路などに大きな被害が生じました。多量の災害廃棄物の処理も大きな課題となっています(石川県による災害廃棄物推計量244万トン(2/29時点))。災害廃棄物は、一般廃棄物として市町村の責任で処理することが原則となりますが、過去の大きな地震や水害の中には、廃棄物の量や性状を踏まえ、産業廃棄物処理業者の方々の協力が不可欠な例が少なくなく、今回の地震も同様の状況と考えられます。
このような中、一般社団法人石川県産業資源循環協会の会長をされています環境開発株式会社代表取締役の髙山盛司様が上京された機会を捉え、お忙しいなか無理をお願いして、産廃業者の協力の状況についてお話をお伺いする時間を取っていただきました。(令和6年3月6日、産廃振興財団)


 

髙山 盛司 会長 髙山 盛司 会長

◆本日は、大変ご多忙のなかお時間を割いていただき、ありがとうございます。よろしければ、まず、地震発生時のご自身の状況についてお聞かせください。

 

髙山:元日は金沢市内の実家にいました。今まで経験したことのない激しい揺れで、テレビが落ちないよう手で押さえたりしていました。そのあと、市内の自宅に戻りましたが、途中、会社に寄ったところ、駐車場のブロック塀が倒れていました。幸い、それ以外、会社も自宅も被害はありませんでした。

地震翌日、県庁で対応を打合せ

◆災害廃棄物に対する取組として最初にどのようなことをされたのでしょうか。

 

髙山:石川県と石川県産業資源循環協会(以下、産資協)とは平成17年に災害協定を結んでいます。翌2日、石川県庁から、午後3時に来てほしいとの電話があり、石川県構造物解体協会(以下、解体協会)とともに打合せしました。最優先の課題は、仮置場の確定と開設準備でした。県や市町で仮置場の候補地を想定してあったのだと思いますが、早速翌3日から、環境省・石川県・市町の方と一緒に候補地を順番に視察し、開設の可否を決めていきました。基本的な条件は、片側2車線の道路沿いにある、3千m2以上の舗装されている敷地で、8品目分別のドライブスルー方式の想定です。七尾市のテニスコートなどがある運動施設の駐車場7千m2が仮置場第1号となりました。志賀町は野球場、その他の市町も公共駐車場や学校のグランド等で確定していき、最終的には、11市町18か所の仮置場が設置されました。
仮置場では、開設後しばらくは住民の方の片づけゴミを受入れ、毎日軽トラック等で約600台程度が絶え間なく持ち込まれます。ゴールデンウィーク以降は公費解体ごみを受け入れる計画になっています。

 

災害廃棄物の処理 (令和6年2月29日 石川県資源循環推進課)

出典:令和6年能登半島地震に係る石川県災害廃棄物処理実行計画 概要版より 出典:令和6年能登半島地震に係る石川県災害廃棄物処理実行計画 概要版より

◆候補地を見に行くのも大変だったのではないでしょうか。


髙山:“のと里山海道”(自動車専用道路)は自衛隊や警察など緊急車両専用になったため、下道での移動になります。1車線しか使えない道路も多く、ガソリンスタンドの給油を待つ車の長い列の渋滞にはまったりして、普段の何倍も時間がかかります。一刻も早く、と気持ちばかりはやりますが、地元の人に声をかけていただいて迂回路を教わったりして助けていただきました。

 

◆協会として、どのような体制で対応されたのでしょうか。


髙山:会長の私がトップで、4人の方に補佐役をしてもらいました。この5人は現場には行かず、指示役や調整役に徹しました。各市町の現場は、それぞれの地域にある会員会社からリーダーを決め担当してもらいました。産資協と解体協会とは、ほぼ会員が重複していて、互いに普段からつき合いがあったこと、2年前の小松市の水害(令和4年8月、豪雨災害)、令和5年奥能登地震(珠洲市で最大震度6強)と、毎年のように災害にみまわれ、経験しないに越したことはないのですが、その経験が活きました。我々の仲間は、今何をすれば良いか分かっている人が多く、関係者31人でLINEグループを作り、常に必要な情報共有・情報交換をして、迅速な判断と行動につながったことは本当に良かったと思います。過去2回の災害と異なり、冬の災害は初めての経験です。夏は暑さ対策に力を入れましたが、今回は寒さ・雪への対策が重要でした。

仮置場の運営を産業資源循環協会が

◆仮置場運営はどのような体制で行っているのでしょうか。


髙山:災害協定に基づき、仮置場の中の運営は産資協が行い、入口で、市町の方が受付(氏名、住所、持込ごみ種類の記載)をしていただきました。仮置場のリーダーは産資協から15名選んで現場の陣頭指揮を取り、仮置場でのバックホー・オペレータなど現場作業員は各仮置場で平均20人を配置し、産資協会員243社からご協力をいただき仮置場の運営に当たってもらいました。

 

廃棄物処理に関連した傷害が発生しないよう注意する必要があります。作業員はもちろん、住民の方にけがをさせないよう動線に気を配ったりする必要があります。二次仮置場は、船舶輸送のための船のバックヤードとして港に整備を始めています。

 

◆他県からの協力はあったのでしょうか。


髙山:穴水町の廃棄物は、富山県が担当してくれることになりました。さらに全国産業資源循環連合会、都道府県協会や経営塾OB会の各社からも、励ましや必要があれば協力するといった連絡を多くいただき、大変心強く、ありがたかったです。
また、ゴールデンウィーク明けからの公費解体に向けて、大手建機メーカーから移動式破砕機について無料で貸与(燃料を除く)していただけることになり、これも大変助かります。

 

 

◆実際に協力をされている中で様々な課題、例えば、関係者との調整や人員の確保や経費の確保などの点での課題が出てきたと思いますが、どういうことにご苦労されているのでしょうか。


髙山:これまで本当に毎日が戦いでした。問題は日々発生しますが、LINEグループの仲間や全国にいる同業の災害対応経験者の知恵もいただきながら、関係者が献身的に動いたおかげでなんとかここまで来られているんだと思います。

簡易トイレのし尿も

例えばですが、1月5日の19時頃に県庁から電話が入り、珠洲市の簡易トイレのし尿が処理できないので、珠洲市役所まで取りに行ってほしい、というものでした。「この時間からか」と頭をよぎりました。「我々は汲み取り車を持っていないので無理だと思う」と言ったら、「凝固剤を使っているので固まっているから何とかお願いします」ということでした。「我々は一般廃棄物の許可はありませんが・・・」と言ったところ、「災害対応なので問題ありません」ということでした。被災者の健康への影響に大きく関わることであり、一廃か産廃かなどと言っておられない切迫した状況であることが分かりました。翌日から汚泥用の4t車で毎日3台走りました。普段なら2時間半で行けるのですが、片道6時間の道程でした。
さらに10日には、石川県建設業協会から電話がありました。国交省の仕事が緊急で入り、道路復旧のために、3万m3の砕石を奥能登2市1町に運ぶことになった、とのことでした。毎日ダンプ80~100台のRC(再生クラッシャーラン)が奥能登2市1町に運ばれます。一方で、我々の仮置場の予定場所は、すべて舗装されているわけではなくRCが必要なのですが、一気に手に入りにくくなりました。最終的には地元建設会社の協力によって必要量は確保できました。
続いて11日には、珠洲市、輪島市、能登町のクリーンセンターが稼働できないため、生活ごみを回収してほしい、との連絡も受けました。これも産資協として協力することとし、産資協会員が保有するパッカー車を毎日15台走らせて回収しています。回収した生活ごみは、県内の自治体と民間施設で焼却等処分しています。本当に今が踏ん張り時だ、との思いです。
さらに2月29日には、県の実行計画に基づく再生利用推進のため、今後公費解体で大量に発生する奥能登2市1町の木くず・可燃・不燃について広域処理の相談もありました。飯田港、宇出津港から県外のセメント工場等まで海上輸送する計画です。無償提供を受ける移動式破砕機の粗破砕で400mmアンダーの受入可能という利点もあり、広域処理によるリサイクル推進に協力することにしています。
また、経費面の問題、お金のことはしっかりしなければなりません。1月12日から3月末までの人件費、処理費その他かかった費用の支払いが必要ですが、市町からのお金は年度末まで出ず、産資協にも必要な金を賄うだけの余裕はありません。地元の銀行の融資を受け、当面の費用を各社に支払うことにしています。

今後は被災住宅の公費解体による廃棄物の処理へ

◆災害廃棄物関係の活動は、今後もまだまだ続くということでしょうか。


髙山:ゴールデンウィーク明けから公費解体による廃棄物が出てくる予定です。2万2千棟が解体撤去されると想定されており、解体を来年令和7年の10月まで行い、処理を令和8年3月までに完了する計画です。1班4~5人程度、解体班数は全部で550班程度必要かと考えています。こうなると石川県内だけでは賄いきれず、遠方から解体事業者が入ってきます。これまでの災害事例では、低モラルの不適切な持ち込みに対しては、仮置場の受入を断らなければなりませんが、不法投棄にならないよう細心の注意が必要です。
今後は、軽トラではなくダンプで搬入されるので、ダンプアップのためのヤードを作るなど、仮置場のレイアウト変更を事前に行います。単に解体して撤去すればいいというものではなく、そこに住んでいた人が自分たちの思い出の品を取り出すための時間も作らなければなりません。公費解体が始まると、市町の方々は公費解体の関連事務に取られ、仮置場の運営に関わりが少なくなりがちなため、市町の方々との連絡は、より密に行う必要があると考えています。
今後も復旧の段階に応じて問題が発生すると思いますが、生活再建に向けた被災者の方々や地元石川県のため、我々も関係する皆様と協力して、災害廃棄物の処理に全力を尽くしてまいります。引き続き、皆様のご協力ご支援のほどよろしくお願いいたします。

 

◆本日は、大変お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました。
[備考]掲載した写真は、髙山会長からご提供いただいたものです。

(聞き手:財団専務理事岩田、調査認証チーム部長改田)

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