建設業界における「川上」の動静脈連携事例
大栄環境グループ/資源循環システムズ
株式会社 ディレクター 松田 清 氏
本稿では、建設業界におけるプラスチックのマテリアルリサイクルの拡大に向けた動静脈連携の取組事例として、株式会社鴻池組と、大栄環境グループ/資源循環システムズ株式会社等が進めている、動静脈連携リサイクルコーディネートプラットフォーム「iCEP PLASTICS(アイセップ プラスチックス)」の活用事例をご紹介します。
なお、本記事は、大栄環境グループ/資源循環システムズ株式会社ディレクターの松田清様よりご寄稿いただきました。ご多忙のなかご協力を賜りましたことに心より感謝申し上げます。
iCEP PLASTICSの概要
iCEP PLASTICS(アイセップ プラスチックス)は、大栄環境株式会社、資源循環システムズ株式会社、株式会社八木熊、ユニアデックス株式会社の4社による、動静脈連携リサイクルコーディネートプラットフォームです。各社の強みを活かし、廃プラスチックの回収・再生樹脂化・成形加工・製品化をワンストップで提供することで、企業のリサイクルスキーム構築を支援しています。
これまで、容器包装プラスチックや製品プラスチック、建材などの使用済みプラスチックを改質・成形技術によって自動車部品として再利用する取り組みや、建設現場から排出された養生材を建設資材として製品化する業界内循環など、様々な業界・用途での動静脈連携リサイクルを推進してきました。
私たちが推進している動静脈連携には二つの側面があります。「排出者(動脈)が再生事業者(静脈)に再生材の原料を供給する」という「川上側」と、「再生事業者(静脈)が製造業(動脈)に再生材を供給する」という「川下側」です。
上で述べた取り組みは「川下側」にあたりますが、マテリアルリサイクルの量と質を向上させるためには、排出段階で分別精度を高める「川上側」の動静脈連携もまた重要です。高度な選別設備を導入しても、排出時点での不適切な分別が中間処理施設での除外率を高め、資源化可能量を減少させています。私たちは、排出事業者と連携し分別精度を高める川上側での動静脈連携の必要性を強く感じていました。
建設業界の廃棄プラスチック課題と鴻池組との協働
廃プラスチックのマテリアルリサイクルにおいて、特に課題が大きいのが建設業界です。建設業界は産業廃棄物全体の約20%を占める大きな排出源ですが、建設現場から排出される廃プラスチックは異なる材質が混在し、汚れや異物が混入した「混廃状態」で排出されることが多く、サーマルリカバリー(熱回収)が主流となっています。
マテリアルリサイクルを進めるには建設現場での分別が有効ですが、実行には複数の課題があります。「作業員が流動的で教育が定着しにくい」「判断基準が複雑で迷いやすい」「分別スペースが限られる」「人手不足の中で分別に時間をかけられない」といった点です。一部の先進的な現場では専任の分別作業員を配置し、人手による徹底管理で分別精度を向上させた事例もありますが、全ての現場に専任者を配置することは困難です。
今回、これらの課題に対し鴻池組と連携して取組みを進めました。鴻池組は、建設業界においていち早く環境配慮と資源循環に取り組んできた企業であり、既に一部の現場で廃プラスチックの分別活動に着手されていました。大栄環境と鴻池組は以前よりお取引があり、その中でiCEP PLASTICSの取組みをお知りいただき、更なるマテリアルリサイクル推進に向けたご相談をいただいたのがきっかけです。鴻池組からの強いコミットメントと現場監督の積極的な関与により、「マテリアルリサイクル率の向上」と「現場作業員の負荷軽減」という二つの狙いを持って、2025年から2026年にかけて物流倉庫建設現場において実証に取り組みました。
現場分別活動による再資源化可能性の実証
鴻池組の物流倉庫の建設現場において、マテリアルリサイクル対象となる廃プラスチックの品目を事前に選定し、分別ルールを策定・実行しました。分別活動後に中間処理施設で性状調査を実施した結果、排出されたプラスチックの59%がマテリアルリサイクル可能と判断されました。これは通常20%程度と言われる建設現場の廃プラスチックのマテリアルリサイクル率と比較して、約3倍の効果が期待される結果です。事前に想定していた物流倉庫特有の養生材や配線保護材などが多量に発生したため、効率的な回収が可能でした。また、回収したプラスチックから建設現場で活用できるプラスチック角材の試作にも成功しています。
本取り組みのポイントとしては以下の3点です。
(1)分別対象品目の選定
現場監督・処理事業者・成形メーカーの三者が協議を重ね、現場の実態と出口製品の要求品質を見据えて分別品目を選定しました。具体的には「分別スペースが限られる現場環境」「分別する作業員の見分けやすさ」「再製品の求める材質」「排出量の多寡」を考慮し、材質や形状の詳細にとらわれず、質と量を両立できる品目単位で定めていきました。
(2)分別ルールの策定と現場への周知
選定した品目ごとに「除去が必要な異物(テープ、ラベル等)」「汚れの判断基準」「異物付着時の取扱い」などを明確化し、建設現場の作業員が迷わず実践できる分別ルールを策定しました。このルールをもとに教育資料と掲示物を作成し、新規入場者教育や朝礼などあらゆる機会を通じて現場への浸透を図りました。
(3)製品化と現場への循環利用
回収されたプラスチックは再資源化工程を経て、プラスチック角材として製品化され、同じ建設現場へ納品されました。建設現場由来のリサイクル製品を現場で再利用することで、作業員が自らの分別行動の成果を実感し、環境意識の向上と分別活動の継続を促進することを期待しています。
今回の実証により、建設現場での廃プラスチック分別によるマテリアルリサイクル率向上と製品化の有効性が確認されました。養生材や配線保護材など多量に発生する廃プラスチックが回収されましたが、その種類は建物用途によって異なるため、物流倉庫、オフィスビル、工場など、それぞれの現場特性に応じた分別対象の選定が重要です。成功の要因は、鴻池組の環境経営へのコミットメント、現場監督による分別活動への積極的関与、そして排出から製品化まで動静脈が連携した体制構築にあります。今後は、倉庫以外の建物用途や他地域での実証に取り組み、汎用性の高い分別ルールを確立し、全社的な取り組みへと発展させることを目指してまいります。
建設業界のマテリアルリサイクルの更なる拡大に向けて
今回の実証プロジェクトでは、分別ルールの策定や現場への周知に相応の労力を要しました。全現場への展開を実現するには、スケーラブルな仕組みが不可欠です。そのための有効な手段として、デジタル技術の活用を検討しています。生成AIと画像認識AIは急速に発展しており、これらを活用することで、分別活動の精度向上と作業員の負荷軽減を両立できると考えています。また、マテリアルリサイクルの担い手となる中間処理施設の整備も不可欠です。iCEP PLASTICSでは、動静脈連携の強みを活かした新施設の企画を進めています。
建設業界における廃プラスチックのマテリアルリサイクル率は、まだ低い水準に留まっています。しかし今回の実証が示すように、適切な分別と動静脈連携により、その数字を大きく引き上げることが可能です。「川上」と「川下」双方の動静脈連携を深化させ、建設業界全体でのマテリアルリサイクルの標準化を実現することで、循環型社会の構築に貢献してまいります。今後も、排出事業者・処理事業者・製造事業者が一体となった取り組みを加速させ、業界を超えた資源循環のモデルケースを創出していきます。


