サーキュラーエコノミーに向けた廃棄物処理業界の「人」の問題(その2)
〜CE成長戦略における経営者の役割〜
1.はじめに
国立研究開発法人国立環境研究所
フェロー 大迫 政浩 氏
例えばドイツでは、学生は中等教育を終了後に職業訓練コースまたは高等教育コースへの選択をし、職業コースに進んだ学生は徒弟制度のもとで働きながら職業学校で学び、制度的に認定された職業人としての資格を得て、社会を支える人材として輩出される。職業に就いてからも実務経験や教育を経て「マイスター」として経営者や後進の人材育成に携わることができる高い地位を社会的に獲得することができる。そして、ドイツも日本と同様に中小企業が多いにもかかわらず、このような職業人材育成システムが、国際競争力をもつドイツ経済の屋台骨としての中小企業(「ミッテルシュタント」)の基盤となっており、大企業の下請け的位置づけになりがちな日本の中小企業の状況とは大きく異なることを認識すべきである。このような日欧の相違も理解しつつ、日本においてもCEに向けた新たな人材育成システムを産官学で協力して再構築していくことが急務である。
以上のような内容を前回述べたが、さて今回は、「人」の問題のうち「経営者」にフォーカスしてみたい。すなわち、今後のCE時代において廃棄物処理業界の成長戦略を描く中で、経営者にはどのような役割があり能力が求められるのか、筆者なりに整理を試みる。筆者は経営学者ではないので、いくつかの資料を基にした一般論的内容になる部分もあるが、後半に第一線で活躍した経営者のインタービュー内容を紹介しているので、是非参考にしていただきたい。
2.廃棄物処理業界のCE成長企業における経営者の役割
2.1 経営者の立場の違い
経営者の役割・能力を考える場合に、経営者の置かれている立場の違いを理解する必要がある。大きくは、オーナー型とサラリーマン型に分けられ、廃棄物処理業界の中小・中堅企業では、廃棄物処理現場に身を置いて一から事業を立ち上げ成長してきたオーナー型経営者が多い。一方、大手の動脈企業グループの一部として廃棄物処理事業を担う中堅企業では、サラリーマン型経営者のケースが一般的である(ここでは環境装置メーカー等のEPC事業者は含まない)。それぞれの立場において、CEに向けた成長戦略を考えた場合の機会とリスク、成長へのポイントは一般的に表1のように整理できる。
一般的にオーナー経営者は、自身の信念・理念をもとにした長期的な視点での経営を考え、機動的な投資への意思決定が可能であるが、ワンマンで独善・属人的な経営になる可能性もあり、周辺からの様々な経営判断に関する情報も不足、または偏る可能性もある。また、一貫性をもった同族経営においては企業の組織経営の文化や価値を含めた次世代への継承が鍵となることから、信念を再現可能な経営システムに変える力が必要になる。
一方、サラリーマン型経営者は、企業内の多様な人材を活用し、合意形成による実装力を発揮できれば、大きな強みとなり成長の機会となる。しかし、任期内での成果を求められ、無難な短期志向の経営に陥りやすく、長期的な布石づくりの視点で、事業の設計力と企業組織内への翻訳力を通じて、制約条件のなかでの未来への余白をつくっていく力が求められる。
表1 オーナー型経営者とサラリーマン型経営者の機会とリスク、成長へのポイント
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オーナー型 |
サラリーマン型 |
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機会 |
長期化価値最大化 |
合意形成・実装力 多様な人材の組f織力 |
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リスク |
独善・属人化、経営判断情報偏向、次世代への価値継承 |
無難・短期志向 |
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キーポイント |
構造化と継承 |
設計力と翻訳力 |
2.2 上場企業と非上場企業
上述の経営者の立場は、上場企業・非上場企業の区別とも重なる部分もある。上場することで、資金調達やM&Aなどの成長戦略や投資家・顧客への信頼性など、多くのアドバンテージが得られるが、財務・非財務情報開示義務や株主・機関投資家・社会への説明責任、組織としての意思決定プロセスなどの点で、成長のブレーキになりかねない負荷も生じる。最近ではオーナー型経営者の企業でも上場企業が増えてきているが、統制(ガバナンス)と挑戦(チャレンジ)の両立が鍵であり、ガバナンスを企業の社会的価値に転換し、成長戦略の手段として捉えていくべきである。
一方、廃棄物処理業界の多くのオーナー型経営者の企業は非上場である。情報開示の自由度が高く、株主もオーナー・ファミリーを含め限定的であり、スピーディな意思決定が可能になることが非上場のメリットである。意思決定の速さは、新たな領域へのチャレンジにおいて先行者利益を生むことも可能である。しかし、資金制約が課題になることから大型投資が難しく、収益性の高い最終処分場を経営資産として持てない場合は、補助金獲得や共同投資、業務提携などを模索するなど、ビジネスモデルづくりに磨きをかける必要がある。
3.CE時代における経営者に求められる能力
3.1 2025年中小企業白書・小規模企業白書にみる経営者の「経営力」
ここでは、最新の中小企業・小規模企業白書1)の内容を経営者視点で参考にすることで多くの示唆が得られると考え、同白書のエッセンスを紹介する。現在置かれている廃棄物処理業界の現状に当てはめて考えてほしい。
1)白書の着眼点
生産・投資コスト増、構造的な人手不足など、中小企業・小規模事業者が直面する状況は依然として厳しい。一方で、中小企業は地域コミュニティ・経済・文化・課題解決の担い手として、地域経済基盤を維持し、地域のニーズに細やかに対応する役割も期待。激変する環境において、経営者の「経営力」を中心に分析。
2)中小企業の動向
- 円安・物価高の継続や30年ぶりの金利上昇は、中小企業者に利益下押しのリスク
- 殆どの業種で深刻な人手不足。コストカット戦略は限界。営業利益向上による賃上げ余力創出が必要。積極的な設備投資・デジタル化と、適切な価格設定・価格転嫁の推進により、労働生産性を高めていくことが重要。
- 後継者不在、経営者年齢の高さは依然として課題。事業承継に向けた取組が必要。
3)中小企業者の成長・持続的発展に向けて有効な取組み
- 「経営力」について、3つの要素に分けて分析(表2参照)
表2 経営力の3つの側面から見た有効な取組み
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経営力の側面 |
経営者としての有効な取組み |
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個人特性面 |
異業種・広域ネットワークで他の経営者と交流し、学び直しに取り組む経営者の成長意欲の高さは業績向上に寄与 |
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戦略策定面 |
経営計画策定・実行、差別化や市場環境を意識した適切な価格設定を行う戦略的経営は業績向上や賃上げ・投資を促進 |
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組織人材面 |
経営理念、業績・経営情報の共有を重視するオープンな経営は業績向上に寄与。賃上げ、社内コミュニケーション円滑化、働き方・職場環境改善など、従業員を大切にする人材経営は従業員の確保・維持に貢献 |
- 人材経営:「成長の壁」の打破のため、成長の加速段階では、経営者にないスキルを持つ補完型人材確保や、経営者の職務権限分散による一人経営体制の克服が重要。売上高100億円以上では、拡大する組織を経営者と共に支える経営人材やDX人材の確保が重要。また、企業規模拡大には、積極的なM&Aやイノベーション、海外展開の推進が有効な手段。
- 小規模事業者では、事業規模・商圏が限られる中、差別化による独自の強みの創出が重要。経営計画策定等を通じ、経営者のリテラシーを高め、経営の振り返りと改善のサイクルを通じた「経営の自走化」を目指すことも重要。地域の社会課題解決事業を担うビジネスの推進も重要
3.2 中小企業における経営者能力に関する既往研究例<sup>2)</sup>
どのような経営者能力がどのような過程を経て中小企業の財務業績に結び付くかという視点での興味深い研究が中田2)により行われた。企業アンケート調査と経営者へのインタビュー調査から、経営者の「リーダー特性 」「 財務管理力 」「 社外人材活用力 」「 社内人材活用力 」といった経営者能力の要素が 「 財務業績 」 に寄与している ことが明らかとなった。 一方、「リーダー特性」は、従業員満足度や従業員の参加意識などの「非財務業績」の向上を通じて、「財務業績」に寄与する間接的な効果があることも確認されたと報告している。表3に経営者能力の各要素の具体例を参考までに示した。
表3 財務業績に寄与する経営者能力の各要素の具体例(文献2から抜粋整理)
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経営者能力の要素 |
具体例 |
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リーダー特性 |
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財務管理力 |
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社外人材活用力 |
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社会人材活用力 |
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3.3 ある経営者へのインタビュー
これまでいくつかの資料を読み解きながら、比較的一般論的に経営者の役割や必要な能力に関して整理した。それでは、廃棄物処理業界における経営者の経営は、実際のところはどうなのか、その点への興味からCEの時代変化のなかで活躍したある経営者(以下、A氏)に話を聴いてみた。現時点では匿名でインタビュー内容のエッセンスのみを紹介するが、実名での紹介可能性を含めて詳細内容は改めて機会をつくってお伝えしたい。
A氏はリサイクルを主な事業としている企業の経営者であったが、サラリーマン型経営者であったため、現在は退いている。社長就任時に業容を拡大させ、CEに向けて企業の新たな事業展開の大きな流れを築いた。以下、Q&A形式でインタビューを一部抜粋して概要を表4に整理した。これまで述べてきた経営者の役割や必要な能力に関して、見事に実践している経営のリアリティが迫力をもって伝わってくるのではないだろうか。
表4 ある経営者へのインタービュー概要
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質問(Q) |
回答(A) |
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成長過程における経営者としての貢献は? |
新規事業への進出(アライアンス構築)、海外進出のきっかけづくり、社内合意形成・ベクトル合わせ |
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経営者として特に心がけ大事にしていたことは? |
パートナー企業との綿密な対話、新規ソルーション事業における従業員へのチャレンジ喚起、新たな企業文化の形成、意識改革 |
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人材経営において大事にしていること、心掛けたこと、工夫されたことは? |
異文化の注入(外国人、ダイバーシティ)、情報の共有(視野の拡大)、従業員の社外派遣・人事ローテーション |
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CE推進のうえでのどのような人材(経営者・右腕人材・若手中堅)が必要か? |
処理・リサイクル事業に関わるあらゆる立場の関係者との信頼関係構築を実現できるソリューション企画・営業責任者・担当者、M&Aスキル保有者(業界通)、業務の全面改革(DX)推進責任者、高度技術(DX、新規リサイクル技術)導入推進責任者、未知への挑戦者(若手) |
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業界全体の人材確保、育成をどのように行っていくべきか? |
地道に相互人材交流を行い、相互信頼関係を構築し、相手の立場を深く理解できる人材を育成することが重要 |
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これまでの経験を踏まえたCE経営のポイントは? |
事業環境変化を敏感に捉えることの大切さ、パートナー選択の難しさ(シナジー、保有技術の将来性、個人経営とサラリーマン経営、後継者選定など)、事業計画(特に入側と出側の仕組みづくり)遵守の難しさ、経営者の意識改革(従業員→経営者として)、コストダウンの呪縛(成長過程では目先の成果ではなく長期的な事業価値づくりが重要)、常に先のことを考え先手を打つ、地域地元企業との連携の大切さ |
4.おわりに
CE政策が国家戦略として推進され、国の新たな制度づくり(再資源化事業高度化法や改正資源有効利用促進法など)や積極的な財政支援もなされているなかで、廃棄物処理業界においても野心的な企業成長戦略のモデルが生まれてきているように思う。具体的企業名は付さないが、同種業態でのM&Aによる拡大、市場エリア・異種業態補完型の協業体制、一廃・産廃統合処理、地域内バリューチェーン構築等のパターンがみられる。これらの展開がどのように日本の将来のCEモデル実現につながっていくのか、今後を注視したい。
筆者自身は、現在の廃棄物処理業界を越えた動静脈連携型の事業モデルとして、プロダクトオーナーと静脈産業が統合された、動静脈垂直統合型の企業成長モデルが現れても良いと考えている。しかしその際には、動脈と静脈が対等な立場で融合していくことが必要であり、そのためにも静脈産業の地位向上が不可欠であると考えている。廃棄物処理業界の経営者の方々には、是非そのような姿を目指してもらいたい。
参考文献
1)2025年度版中小企業白書・小規模企業白書、https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html
2)中田宏昌:中小企業の経営者能力、神戸大学博士論文(2022)、https://da.lib.kobe-u.ac.jp/da/kernel/0100477848/D1008422.pdf


