2026年秋号表紙

JESCOにおけるPCB廃棄物の処理について(中編)

~JESCOにおけるPCB廃棄物処理の特徴、処理開始後の取組~

JESCOにおけるPCB廃棄物の処理について(前編)~PCBの登場からJESCOによるPCB廃棄物処理の実現までの道のり~

こちらは 前・中・後の3編の連載となっております。前編は産廃振興財団WEB JORNAL2026夏号のこちらをご覧ください。

6.JESCOによるPCB広域処理の実現

(1)各地域における準備

中間貯蔵・環境安全事業株式会社<br>取締役 山本 昌宏氏 中間貯蔵・環境安全事業株式会社
取締役 山本 昌宏氏

 国から立地候補自治体への働きかけ(2000年頃~)とも連動して、各地域で有識者検討委員会による検討が進められ、その地域で立地する場合の具体的な条件が整理されました。
 2001年に環境事業団がPCB廃棄物処理を担うことが決まって以降は、各地域での検討結果を受ける形で、環境事業団の有識者による委員会での具体的な検討へと移行していきます。また、環境事業団による施設建設が決まった後は、立地自治体はこれを監視する立場として、地元住民や関係者の参加する会議体を立ち上げ、有識者による事業部会と地元関係者の参加した監視会議とで、各地域におけるPCB処理事業を監視・指導する体制ができあがります。
 各地域において事業開始に至る経緯を整理すると表2のようになります。中でも、北九州市では、住民説明会と並行して、有識者委員会1の委員と市民とが直接意見交換をする場2を設けるなど、有識者が前面に立ってPCB処理事業の必要性や安全性を丁寧に説明することで、受入に向けた理解醸成に大きく貢献いただきました。また、北海道では、有識者委員会3の委員が参加してシンポジウム4を開催するなど、同様に初期の理解醸成に貢献いただきました。

表2 各地域における事業開始までの経緯

事業地域

時期

主な出来事

共通

2001年

2004年

PCB特措法制定、環境事業団法改正(6月)

環境事業団解散(3月)、JESCO発足(4月)

北九州

2000年

2001年

 

2002年

2003年

2004年

2007年

2009年

厚生省→市に施設の受入要請(12月)

市が国主体の準備開始了解、市有識者委員会設置(2月)、委員会と市民意見交換会(5月)、委員会報告書(8月)、市受入表明(10月)、事業実施計画認可(11月)、事業所設置(12月)

市監視委員会設置(2月)、事業部会設置(3月)

第1期施設設置許可(3月)

開業・処理開始(12月)

第2期施設設置許可(8月)

安定器・汚染物等処理開始(7月)

大阪

2000年

2001年

2003年

2004年

2006年

市有識者委員会設置(6月)、厚生省→市に施設の受入要請(12月)

委員会答申(2月)、市基本計画策定、市受入表明(6月)

事業実施計画認可、事業所設置(2月)、事業部会設置(3月)、市監視会議設置(9月)

施設設置許可(12月)

開業・処理開始(10月)

豊田

2000年

2001年

2002年

2003年

2004年

2005年

市有識者委員会設置(9月)

環境省→県・市に立地要請(4月)、委員会最終答申(9月)

県・市受入回答、事業部会設置、事業実施計画認可(10月)、事業所設置(11月)

市安全監視委員会設置(10月)

施設設置許可(3月)

開業・処理開始(8月)

東京

2000年

2002年

2003年

2004年

2005年

都有識者委員会設置(6月) 、委員会報告(12月)

環境省→都に立地要請、都受入表明(4月)、事業部会設置(10月)、事業実施計画認可(11月)

事業所設置(4月)

施設設置許可(6月)、環境安全委員会設置(10月)

開業・処理開始(11月)

北海道

2001年

2002年
 

2003年
 

2004年

2005年

2006年

2008年

2011年

2013年

道有識者委員会設置(7月)

環境省→道に施設受入要望、室蘭市誘致表明(5月)、市民説明会・市安全市民委員会(6~11月)、シンポジウム開催(11月)、市→道・環境省へ立地要望(12月)

事業実施計画認可(2月)、事業所設置(4月)、事業部会設置(6月)、環境省→道・市に対象地域拡大要請(11月)

道・市対象地域拡大受入回答(3月)

道・市監視円卓会議(9月)

当初施設設置許可(2月)

開業・処理開始(6月)

増設施設設置許可(11月)

安定器・汚染物等処理開始(9月)


[1] 北九州市PCB処理安全性検討委員会

[2] 北九州市PCB処理安全性検討委員会主催の「市民と委員の意見交換会」で約450名の市民が参加。浅野直人委員長代理が進行を務め、酒井伸一、田辺信介、永田勝也、森田昌敏委員(五十音順、敬称略)が参加。市民の様々な疑問、質問に委員が直接応答。

[3] 北海道PCB廃棄物適正処理検討委員会

[4] 「PCBシンポジウム2002 inムロラン」、安全で安心なPCB廃棄物処理を目指して、をテーマに開催。基調講演に森田昌敏(国立環境研究所統括研究官)、パネルディスカッションのコーディネーターに真柄泰基(北海道大学工学部都市環境工学専攻教授)が参加。

(2)環境事業団における準備

  2001年6月のPCB特措法の制定と環境事業団法の改正により、新たに高濃度PCB廃棄物処理を担うことになった環境事業団では、その実現に向けての準備を進めることになりました。いずれ新たに設立される特殊会社に業務が移管されることは分かっていましたが、この事業を無事立ち上げることが、環境事業団としての役割を全うすることであり、関係者が引き続き国策としての業務に携わる将来につながるものでした。
 環境事業団では、環境省からの出向者も加え、誰も経験のない、PCB廃棄物の化学処理施設の建設に向け困難な準備作業に取り組むことになりました。その際、大きな力となったのは、立地自治体や関係企業からの出向者であり、これに加えて、産廃振興財団が立上げた技術者チームでした。環境省による予算措置をもとに、産廃振興財団では化学プラントの設計や建設に関する豊富な知見・経験を持った技術者のチームを編成し、環境事業団職員とともに委員会資料や発注図書の作成などの膨大な業務に取り組んでいただきました。
 PCB特措法の制定時には、今後5年間で処理施設を建設して稼働させ、稼働直後から100%の処理能力を発揮(垂直立上げ)させて、その後10年間で処理を完了するという想定のもと、同法に基づく基本計画が策定され、2016年(平成28年)3月が処理完了予定時期とされました。
 世界にも前例のない高濃度PCB廃棄物の化学処理施設であり、常識的には時間をかけて徐々にスケールアップして処理能力を上げていくべきところ、およそ実現不可能と思われる想定でしたが、法令上の期限が設定された以上、ともかく施設を建設しなければ話が始まりません。特殊法人改革の最中のため、職員の増員も認められない厳しい環境の中、大きな挑戦が始まりました。

(3)有識者委員会の役割

 環境事業団による準備を支えたのは、当時の日本を代表する第一線の有識者による委員会の体制とその精力的な活動でした。
 2001年6月の法改正で、環境事業団がPCB廃棄物処理を担うことになると、直ちに有識者による「環境事業団PCB処理技術懇談会5(以下「技術懇談会」という。)」を立ち上げ、7月から精力的な活動を開始しました。
 化学処理による高濃度PCB廃棄物処理施設を環境事業団(その後継となる特殊会社)が建設し、運転するという制度設計なので、まずはどのような処理技術を採用し、施設を建設するか、その技術面や安全面、環境面の具体的な要件を定めていく必要がありました。
 その当時、PCBの化学処理については、数多くの企業が技術開発・実証を進めていたため、各社の技術のレビューも必要で、技術懇談会では、処理技術に詳しい委員による技術保有企業に対するヒアリングを含め、短期間に技術面と安全面からの検討を精力的に行い、同年9月に報告書「PCBの処理技術及び環境安全施策について」をとりまとめました。
 翌10月に北九州市の受入表明がなされたことを受けて、環境事業団では「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会6(以下「事業検討委員会」という。)」を設置して、北九州市に立地する処理施設に関する具体の検討に着手しました。検討に際しては、北九州市の有識者検討委員会報告書と受入条件を前提として、技術懇談会における事前のとりまとめに加え、PCB処理施設の現地調査、技術保有企業の追加調査、詳細ヒアリングなど、精緻な検討を精力的に行い、同年11月に処理施設に求められる技術的な要件が整理7されました。翌2002年2月には、処理施設における管理区分や処理の完了確認、卒業判定、各種モニタリングの考え方など、施設における環境安全施策の内容が整理8されました。
 これら北九州事業を念頭に整理された考え方を、他の事業にも適用できる共通のベースとして、同年9月に再整理9し、これをベースに、事業ごとに事業検討委員会のもとに設置された事業部会10において、各事業に即した処理施設の要件等が整理11されました。
 また、最初に取り組んだ北九州事業の第1期施設における設計段階では、HAZOP等による安全解析や、その結果抽出された異常時のシナリオについての定量的な評価など、安全性の評価が行われ、2003年8月にはこれらが安全設計の基本的な考え方12としてとりまとめられました。この安全設計の考え方も後続の施設へと水平展開されました。
 2004年2月には、北九州事業の操業に向けて、作業従事者の安全衛生管理についての報告書13がまとめられ、PCB処理施設における作業環境管理、作業管理、健康管理の考え方が具体的に整理され、作業従事者の血中PCB濃度の測定も導入されました。作業従事者が安全で安心できる施設であることこそが、周辺住民にとっての安全・安心につながるとの考えが基本にあります。また、作業従事者の血中PCBをモニタリングすることで、操業時の安全の確認や、速やかな作業改善、作業環境改善につなげることができ、操業後の施設の安全に大きく貢献することになります。
 以上の事業検討委員会・各部会における主な報告書を表3に示します。
 

表3 事業検討委員会・各部会における主な報告書

 

時期

報告書

事業検討委員会

2001年11月

2002年2月

2002年9月

2003年8月

2004年2月

北九州事業の処理施設について ※北九州第1期施設

北九州事業の環境安全施策について ※北九州第1期施設

処理施設に係る技術的条件及び環境・安全対策について ※各施設共通

施設の安全設計について ※各施設共通

施設における作業従事者の安全衛生管理について ※北九州第1期施設

作業安全衛生部会

2005年5月

2008年12月

2012年12月

施設における作業従事者の安全衛生管理について ※2004年版の見直し

北九州第2期施設における作業従事者の安全衛生管理について

北海道増設施設における作業従事者の安全衛生管理について

北九州事業部会

2003年8月

2005年11月

2008年6月

北九州第1期施設の安全設計について

北九州第2期施設について

北九州第2期施設の安全設計について

大阪事業部会

2003年5月

2005年7月

2005年12月

大阪事業の処理施設について

大阪施設の安全設計について

大阪施設における作業従事者の安全衛生管理について

豊田事業部会

2003年3月

2004年12月

2004年12月

豊田事業の処理施設について

豊田施設の安全設計について

豊田施設における作業従事者の安全衛生管理について

東京事業部会

2002年11月

2004年9月

2005年4月

東京事業の処理施設について

東京施設の安全設計について

東京施設における作業従事者の安全衛生管理について

北海道事業部会

2005年7月

2006年9月

2007年1月

2007年10月

2010年5月

2012年8月

北海道事業の処理施設について

北海道施設の安全設計について

北海道施設における作業従事者の安全衛生管理について

北海道増設施設について

北海道増設施設について ※2007年版の見直し

北海道増設施設の安全設計について


[5] 3か月後に設置される事業検討委員会と同じメンバーで構成。北九州市による受入表明前の準備段階における技術的な検討、とりまとめを実施。

[6] 伊規須英揮、岡田光正、酒井伸一、田中勝、田辺信介、永田勝也(委員長)、長谷川和俊、原口紘炁、細見正明、益永茂樹、宮田秀明、森田昌敏、若松伸司(五十音順、敬称略)が委員として参画。

[7] 「北九州市ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業の処理施設について」(平成13年11月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/rep_01.html

[8] 「北九州事業の操業に向けての環境安全施策について」(平成14年2月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/rep_02.html

[9] 「ポリ塩化ビフェニル廃棄物(高圧トランス・高圧コンデンサ等)処理施設に係る技術的条件及び環境・安全対策について」(平成14年9月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/rep_03.html

[10] 北九州事業部会(主査:伊規須英揮産業医科大学産業生態科学研究所長)、大阪事業部会(主査:酒井伸一国立環境研究所循環型社会形成推進・廃棄物研究センター長)、豊田事業部会(主査:田中勝岡山大学大学院自然科学研究科教授)、東京事業部会(主査:永田勝也早稲田大学理工学部機械工学科教授)、北海道事業部会(主査:森田昌敏国立環境研究所統括研究官)(いずれも所属は設立当時)

[11] 各事業について、処理施設の考え方、安全設計の考え方、作業従事者の安全衛生管理の考え方がそれぞれ事業部会報告書としてとりまとめられている。JESCOホームページ参照。https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/index.html#rep01

[12] 「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理施設の安全設計について」(平成15年8月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/rep_08.html

[13]  「ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理施設における作業従事者の安全衛生管理について」(平成16年2月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/rep_09.html

(4)JESCOにおける取組

① 5事業所による広域処理

 環境事業団における準備を引き継いで、2004年4月にJESCOが発足しました。JESCOでは、環境事業団における事業検討委員会・部会の体制をそのまま継承し、それまでにとりまとめられた各種報告書をベースに、引き続き事業検討委員会・部会に諮って各事業に必要な要件を整理しながら、順次PCB廃棄物処理施設の整備を進めました。

 2004年12月に最初の北九州事業所第1期施設の操業を開始し、翌2005年には豊田事業所と東京事業所、2006年に大阪事業所、2008年に北海道事業所の操業を開始し、これら5か所の施設で全国をカバーする広域処理体制を整備しました。これらの具体的内容を以下に述べます。

② 変圧器・コンデンサーの処理体制

 最初に整備されたのは、高濃度PCB廃棄物の大きな割合を占める変圧器とコンデンサーを処理する施設で、各事業における発注結果に応じてそれぞれ特徴のある化学処理方式が採用されました。 
 北九州から順次事業実施計画が認可され、対象地域として、北九州事業は中四国・九州・沖縄の17県、大阪事業は近畿2府4県、豐田事業は東海4県、東京事業は1都3県と定まりましたが、北海道事業は道内を対象とすることしか決まっておらず、JESCO発足前の2003年2月時点では、まだ東北・北関東・北陸15県の処理先が未定でした。
 宮城県や新潟県での立地も検討され、住民説明会なども行われましたが、地元の強い反対もあって実現せず、2003年11月、環境省から北海道・室蘭市に対して、残る15県への対象地域の拡大要請がなされました。その後の関係者の調整を経て、翌2004年1月には、15県から北海道・室蘭市に要請が行われ、同年3月に受入の回答がなされました。東日本の広い範囲を北海道・室蘭市で一手に引き受けていただいたお陰で、JESCO発足時には、PCB処理能力として、概ね同じレベルの処理施設による、全国の広域処理体制がバランスよく整うことになりました。
 なお、最初に開業した北九州事業では、北九州市内分の変圧器・コンデンサーの処理を2年間で処理できる施設を、まず第1期施設として整備し、その経験も踏まえて、変圧器・コンデンサー全体の処理に加え、安定器やその他の汚染物も処理する施設として、第2期施設を整備するという、2段階での施設整備となっています。
 また、当時、電力会社の保有する柱状トランスのPCB汚染が問題となっていて、これを処理する施設の立地が、東京都内では難航していたため、東京事業においては、柱状トランスの低濃度PCBを処理するラインを設けることが求められたため、他の事業所にはない低濃度PCB処理ラインを設けることになりました。

図2 変圧器・コンデンサーの処理体制[14] (5事業所間の相互活用を含む) 図2 変圧器・コンデンサーの処理体制[14] (5事業所間の相互活用を含む)


[12] 出典:JESCO環境報告書2014 https://www.jesconet.co.jp/content/000011753.pdf

③    安定器等・汚染物の処理体制

 当初整備された変圧器・コンデンサーの処理施設では、機器内のPCB油を抜き取って、これを化学的に無害化するとともに、機器本体は解体、洗浄する施設として計画され、それ以外の安定器や様々なPCB汚染物は処理対象とは想定していませんでした。これらを処理するには、より汎用性の高い処理施設が必要なため、後に処理ラインを追加することが想定されていました。
 ただし、八王子市の蛍光灯用安定器の破裂事故があり、東京都の保有する安定器も数多くあったことから、東京事業のみ、変圧器・コンデンサーの処理に加えて、安定器を対象に追加することが当初から計画されました。2002年に事業検討委員会技術部会15における技術的な整理16を行った上で、安定器処理ラインを設置しましたが、安定器の充填材の影響で効率的な処理が行えず、改めて技術的な整理17を行った上で、2012年に処理を断念し、北海道事業所で処理することになります。
 このように安定器については2002年に処理する場合の技術的条件について整理が行われましたが、処理すべきPCB廃棄物には、その他の小型電気機器のほか、感圧複写紙、ウエス、汚泥等の様々なPCB汚染物があり、国の基本計画18では、「安定器以外の汚染物等と合わせてより効率的な処理ができるよう、処理体制の整備を検討する」とされていました。
 PCB汚染物は、個々の対象物によって性状等が大きく異なると予想されますが、その実態や処理技術に関する情報が十分把握されていなかったため、技術部会において詳細な検討を行うことになりました。JESCOでは、財団法人兵庫県環境クリエイトセンターに調査を委託して、PCB汚染物の実態把握を行うとともに、処理技術保有企業における実証試験を含めた詳細な技術検討を行いました。その際、同センターに有識者検討会19を置いて、採用しうる処理技術と処理の技術的条件等を整理し、その結果を2005年4月に報告書20としてとりまとめています。
 このような技術的検討を経て、安定器や汚染物等の処理は、最初に北九州事業の第2期施設において行われることになり、発注手続きを経てプラズマ溶融分解処理を行う方式が採用され、2009年7月に処理が開始されました。プラズマ溶融分解は、中心温度約15,000 ℃のプラズマ空気を照射して、炉内雰囲気1,200 ℃以上で、ドラム缶またはペール缶ごとPCB を溶解・分解する処理方式で、安定器の他、多様なPCB汚染物の無害化処理に威力を発揮できる処理方式です。一方で、設備導入の費用も運転費用も高額になり、各事業所にこれを併設することになると、処理料金が極めて高額になることもあって、関係者との調整の結果、西日本と東日本の2地域に区分して、北九州事業所と北海道事業所の2か所で全国をカバーする方針とされました。
 この方針を踏まえて、既に1基のプラズマ設備を設置していた北九州事業所には、もう1基のプラズマ設備を増設し、北海道事業所には、増設施設として新たに2基のプラズマ設備を設置することになり、北海道事業所の増設施設は、2013年9月から安定器、汚染物等の処理が開始されました。
 後述の2014年の基本計画改定により、北九州事業所では、大阪事業所と豊田事業所の対象地域をカバー(2015年度から処理開始)し、北海道事業所では、東京事業所の対象地域をカバー(2016年度から処理開始)することになりました。ここに至り、ようやくすべての高濃度PCB廃棄物の広域処理体制が完成することになります。

図3 安定器等・汚染物の処理体制 [21] 図3 安定器等・汚染物の処理体制 [21]


[15] 川本克也、酒井伸一(主査)、篠原亮太、中野武、細見正明(副主査)(五十音順、敬称略)が委員として参画。

[16] 「PCB使用安定器の処理について」(平成14年9月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会技術部会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/rep_04.html

[17] 「東京事業所における安定器処理の方針について」(平成24年3月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会技術部会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/rep_tokyoanteiki.html

[18] ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画(平成16年5月改定)https://www.env.go.jp/content/900535238.pdf

[19] ポリ塩化ビフェニル汚染物等処理技術調査検討会:座長細見正明(東京農工大学工学部化学システム工学科教授)、泉澤秀一、太田壮一、川本克也、中野武、稲葉次紀(五十音順、敬称略)が委員として参画。

[20] 「PCB汚染物等の処理について」(平成17年4月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/content/900003511.pdf

[21] 出典:JESCO環境報告書2014 https://www.jesconet.co.jp/content/000011753.pdf

④    処理困難物の処理

 上記のように、順次高濃度PCB廃棄物の広域処理体制が整いましたが、処理対象となるPCB廃棄物には、そのままでは運搬困難な超大型の変圧器や、ビル内にあって搬出できないなどの処理困難なもの(以下「処理困難物」という。)があり、これらの処理をどうするかが大きな課題でした。
 これらを搬出するには、保管現場において、抜油(機器内のPCB油の抜き取り)、部品の取り外しや筐体の切断等の作業を行う必要がありますが、多重の安全対策を講じたJESCO処理施設の中ではありませんので、現場の作業を、いかに作業者にとって安全に、また、周辺環境へPCBを漏洩させることなく行うかが重要です。前例のない作業のため、技術部会の指導・助言をいただきつつ、現場の実態調査や様々な実証試験を行って、数次にわたる報告書22をとりまとめ、安全な手法を確立しつつ現場作業を支援しました。
 実際の作業は、保管事業者の責任の下、2013年度から2021年度にかけて行われ、グリーンハウスの設置等により現場の安全を確保しつつ、抜油、部品の取り外しや筐体の切断等を行った上で、JESCO施設に搬入し、すべての処理困難物の処理を無事完了しました(詳しくは技術部会報告書23を参照。)
 


[22] 「大型トランス等に係る現場解体作業について(抜油及び付属品取外し作業)」(平成16年4月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/rep_10.html

「大型トランス等に係る現場解体作業について(第二次報告書)」(平成21年3月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/bulktrans-2nd.html

「大型トランス等に係る現場解体作業について(第三次報告書)」(平成28年10月、ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会報告書)https://www.jesconet.co.jp/business/contents/pcb_committee/report/bulktrans-3rd.html

[23] 「高濃度PCB廃棄物処理における処理困難物に係る取組報告書」(令和5年12月、中間貯蔵・環境安全事業株式会社ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会技術部会)https://www.jesconet.co.jp/content/000016231.pdf

7.JESCO処理の特徴

(1)処理方式

 先に述べたように、事業検討委員会・各部会でとりまとめた報告書をもとに、各事業において発注手続きが進められ、それぞれ特徴のある処理方式が採用されました(表4参照)。PCBの無害化には、主に脱塩素化分解方式が採用され、反応ごとにPCBの十分な分解・無害化を確認した上で、処理を進める方式がとられました。また、安定器やその他の汚染物処理には、プラズマによる溶融分解方式が採用されています。

 

表4 JESCO事業におけるPCB無害化処理方式 

(2)多重の安全対策

 処理施設や作業従事者の安全に関しては、先に述べた事業検討委員会等の報告書で詳細な検討、整理が行われました。「絶対安全」というのはあり得ず、リスクは存在し、事故は起こり得るとの想定で、フェイルセーフ、セーフティネットを検討することが、JESCO処理における安全の基本的考え方となっています。これらの考え方をもとに、徹底した安全設計が行われました。フェイルセーフ・セーフティネットの考え方を含む多重の安全対策が盛り込まれ、排気のオンラインモニタリングによる常時監視など、監視・モニタリングの充実が図られました(図4、5参照)。

図4 JESCO処理施設の安全設計 [24] 図4 JESCO処理施設の安全設計 [24]

図5 JESCO処理施設における多重の安全・管理対策 [25] 図5 JESCO処理施設における多重の安全・管理対策 [25]


[24] 出典:JESCO環境報告書2014 https://www.jesconet.co.jp/content/000011753.pdf

[25] 出典:JESCO環境報告書2014 https://www.jesconet.co.jp/content/000011753.pdf

(3)各事業の有識者会議と監視会議

 各処理事業については、地域ごとに有識者の事業部会を置いて、専門家の指導・助言を受けつつ操業を行う体制としました。また、立地自治体の立場から、事業を監視する会議 が別途設置され、定期的に操業状況等の説明を行い、ご意見をいただくことで、地元との信頼関係構築に寄与しています。

 このような体制は、豊島の大規模不法投棄事案の解決のために設置された有識者委員会27と監視会議をモデルに、事業検討委員会の指導を受けて整理されたものです。豊島事案では、住民と行政との間に、それまでの係争を通じた対立状態が続いていたため、問題解決のためには、対立ではなく「共創」の理念が必要とされました。「共創」とは、主体的な関係者がともに参加・協働し、新たな関係や価値観を創って問題を解決する、目標を達成するという理念です。有識者の専門家集団と住民代表が、安全・安心・確実なPCB処理・廃絶という目標を共有し、「共創」の理念のもとに、それぞれの立場で当事者として参加、チェックをする、このような構造的なフェイルセーフの体制を持つことが、JESCO事業に対する関係者の信頼確保、安心の醸成につながる、との考えによります。


[26] 北九州市PCB処理監視委員会(2012年4月より北九州市PCB処理監視会議)、大阪市PCB廃棄物処理事業監視会議(2013年9月より大阪PCB廃棄物処理事業監視部会)、豊田市PCB処理安全監視委員会、東京ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業環境安全委員会、北海道PCB廃棄物処理事業監視円卓会議

[27] 1997年に設置された「香川県豊島廃棄物等処理技術検討委員会」で、委員長永田勝也、副委員長武田信生、岡市友利、坂本宏、高月紘、田中勝、中杉修身、本多淳裕(五十音順、敬称略)が参加。その後、2004年からは「豊島廃棄物等管理委員会」、2017年からは「豊島廃棄物等処理事業フォローアップ委員会」と名称を変更しつつ、専門的な助言を継続。

(4)初期トラブルへの対応

 考えられる限りの安全に対する備えは準備しましたが、前例のないPCB廃棄物の化学処理プラントですから、実際の操業が始まった当初は、様々な初期トラブルが発生しました。中でも施設外へのPCB漏洩につながったものとして、操業開始直後の2005年11月の豊田PCB処理事業所(同年9月操業開始)、2006年3月及び5月の東京PCB処理事業所(2005年11月操業開始)におけるPCB漏洩事故(詳しくは当時のJESCO環境報告書 を参照)があります。
 幸い事後のモニタリング等による確認で、周辺環境への影響は認められませんでしたが、JESCOでは、漏洩事故を相次いで発生させたことを厳粛に受け止め、今後二度とPCB漏洩事故を起こすことがないよう安全体制等の抜本的改革を行いました。第三者機関による点検を受けながら、人事の刷新等の安全管理体制の強化、作業手順や設備の安全総点検及び安全教育等を実施し、併せて設備のフェイルセーフ機能の充実等の施設の改善を実施しました。この後も、トラブルはありますが、都度、原因究明や再発防止に努め、また、操業にも習熟していくことで、トラブルの件数は減少し、立地自治体や周辺住民の信頼向上につながっていくことになります。
 


[28] 出典:JESCO環境報告書2006 https://www.jesconet.co.jp/content/000011763.pdf

(5)処理費用の徴収と収支相償

 PCB廃棄物は、そのほとんどが産業廃棄物であり、排出事業者責任により処理されるべきものです。しかし処理の受け皿がないことから、特例的な制度を設け、国が処理施設を整備することになりましたが、その処理費用は排出事業者から徴収する必要があります。
 JESCOの処理施設の建設や設備改修のハード面の費用は、国からの補助金で手当てされましたが、処理に要する費用については、排出事業者から徴収し、収支相償とすることが求められました。PCB廃棄物を保管している各事業者と委託契約を結び、処理を行うことになりますが、当時は使用中のものも多く、最終的に対象となる処理台数が不確かな上に、JESCOの広域処理体制が整う途上の段階で、処理料金を定めざるを得ませんでした。
 対象となる保管事業者は、大企業だけでなく、中小企業や小さな町工場、個人事業主まで、広範かつ多数に及ぶため、その契約事務は膨大な労力を要するものでした。このような事務を行うための十分なマンパワーはJESCOにはなく、当初の制度設計では、PCB特措法に基づく国の基本計画に即して、都道府県・政令市がPCB廃棄物処理計画を策定し、計画的な搬入が行われるように保管事業者に対する必要な指導監督を行うことが想定されていました。そのために、各事業では、環境省やJESCOも参加し、対象地域の自治体からなる広域協議会を組織して、JESCO処理施設の状況に応じた搬入が計画的に行われるよう、行政間での必要な調整を行う枠組みが設けられました。
 しかし、実際の処理を進める段階になると、行政による保管事業者の指導では、十分な調整とはならず、処理の委託契約を結ぶJESCO自身が、保管事業者とのきめ細かな調整を行う必要が生じました。そのため、JESCOでは、保管事業者との直接のやり取りを行い、処理施設の受入に支障のない状態で、適切な時期に搬入されるように必要な調整を行う役割を担う部署を設けることになりました。これが本社のPCB処理営業部と各事業所の営業課となって、行政と連携し、処理の円滑な実施に大きな役割を果たすことになります。
 

8.処理期限の延長と処理施設の特徴を活かした5事業所の相互処理

 PCB特措法の制定時には、PCB廃棄物処理施設の建設後約10年の処理期間を想定し、基本計画上、2016年(平成28年)3月が完了予定時期と設定されました。環境省では、法施行後10年目の施行状況の点検を行うため、2011年10月に有識者検討委員会29(以下「環境省PCB検討委員会」という。)を立ち上げて点検を実施しました。
 その結果、全国5事業所での処理は立ち上がっていたものの、操業開始後の安全対策や処理工程の改善など、追加的な課題への対応により、期限内の処理が困難な状況が判明しました。環境省PCB検討委員会では、翌年にかけて9回の委員会を開催するなど精力的な検討を進め、2012年8月に報告書30を取りまとめました。この報告書の中で、今後の処理推進に当たっての基本的な考え方が示され、処理能力向上のための施設の改造や、5事業所それぞれの特徴(得意、不得意)を考慮して、相互に活用、補完することで処理を促進する方針が打ち出されました。
 この報告書の考え方を踏まえて、環境省では各地域の監視会議や広域協議会における説明を重ね、JESCOでは5事業所における処理促進策を事業検討委員会において検討し、具体化を図りました。これらの説明や検討を経て、環境省は、JESCOの5事業所の相互活用により、能力を最大限活用できる処理体制を構築することで、極力処理期間を短くできるように全体の見直しを図り(図2参照)、2014年6月に基本計画を改定31、処理の期限を再設定しました。具体的には、JESCOへの処理委託期限である「計画的処理完了期限」(施設ごとに設定~2023年度)と、事業終了準備を行う期間である「事業終了準備期間」(施設ごとに設定~2025年度)が各施設の進捗状況に応じて設定されました(図6参照)。また、この改定により、前述の全国2か所での安定器等の処理体制も整理されました。
 処理期限の延長にあたっては、立地自治体の住民からは、約束違反などの厳しい声が上がりましたが、長期間の調整を経て、再延長しないなどの地元からの受入条件を環境省が受諾して、最終的に地元にも容認いただきました。
 

図6 2014年の基本計画改定により設定された処理期限 [32] 図6 2014年の基本計画改定により設定された処理期限 [32]


[29] PCB廃棄物適正処理推進に関する検討委員会:委員長永田勝也(早稲田大学理工学部教授)、浅野直人、飯干克彦、伊規須英揮、織朱實、影山嘉宏、川本克也、鬼沢良子、酒井伸一、田中勝、田辺信介、田和健次、築谷尚嗣、本多清之、森田昌敏(五十音順、敬称略)が委員として参画。

[30] 「今後のPCB廃棄物の適正処理推進について」(平成24年8月、PCB廃棄物適正処理推進に関する検討委員会報告書)概要https://www.env.go.jp/press/files/jp/20514.pdf、報告書https://www.env.go.jp/press/files/jp/20515.pdf

[31] ポリ塩化ビフェニル廃棄物処理基本計画(平成26年6月改定)https://www.env.go.jp/content/900535242.pdf

[32] 出典:JESCO環境報告書2014 https://www.jesconet.co.jp/content/000011753.pdf

 

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