日本の最終処分場の研究・技術開発の変遷 ―文献から読み解く黎明期~発展初期―
はじめに
明星大学理工学部総合理工学科
教授 宮脇健太郎 氏
日本の最終処分場の構造は、欧米のそれとは異なると言われてきました(図1参照)。「準好気性埋立構造」(福岡方式)と呼ばれる埋立構造については、処分場のことを学ぶと必ず出てくると言って過言ではありません。その技術発展過程については、当時の状況を体験・理解した方々によりいくつかの文献で記載され1)2)、また、様々な研究者・技術者によって語り継がれてきています。本報では、現在比較的入手が容易となった過去の文献をもとに、処分場(以下埋立地と呼ぶ)技術開発の黎明期~発展初期を読み解き概観します。以前、タイトルは引用文献リストに記載されていても入手困難な原稿が多くありました。現在、インターネット上で多くの古い研究文献が確認できるようになりました(まだ引用タイトルだけの文献や国会図書館蔵も多数あります)。ここでは、体系的な整理よりも、いくつかの論点を手がかりにしながら、緩やかに文献と当時の技術発展について記載しました。著者は当時のことを直接知っているわけではなく、諸説ありの一つとしてご覧いただければ幸いです。
図1 埋立構造略図(準好気性:日本・嫌気性:欧米など)
処分場技術開発の黎明期
1960年代~福岡大学水理衛生工学実験室において、日本で初めての「ごみ埋立」の研究が始まった。花嶋正孝先生の発想を基に福岡市との共同研究が実施されたと言われています3)。1970年代には、花嶋先生、松藤康司先生、その他の多くの研究者により、実験模型層を用いた室内試験、現地試験など実施されました。文献タイトルが確認できるものは、花嶋・林田:埋立ゴミの分解過程の考察(1968)4)がはじめとされています。高さ1.5mの埋立模型槽5槽(充填量350-400kg)を用いた実験で嫌気性・好気性条件での層内温度、発生ガス、COD他水質を検討したものでした。既に埋立地研究として現在も行われる項目が備わった研究となっていました。続いて、花嶋・吉田・松藤:都市ごみ埋め立て処理処分(1972) 5)、花嶋:廃棄物埋立の変遷と動向(1975)6)などが、研究初期の報告となります。この後1980年代まで、福岡大学グループにより、多数の文献が集中的に発表されています。この当時の文献は、ほとんどが研究発表会などの講演論文(概要)であり、最低限のデータ、考察のみが記載されているため、詳細な実験条件は不明な場合も多いものです。花嶋・松藤:廃棄物埋め立てにおける生物学的アプローチ ー埋立構造とその変遷―(1977)7)では、それまでの福大グループでの研究を整理し紹介しています。この中では、有名な埋立構造を整理した図2を示している(当時の手書き)。また、比較的大型な実験模型層(文献では、埋立プラント)を用いた実験(図3)を紹介し、BOD成分の好気性微生物による急速な分解過程について解説し、準好気性埋立構造による廃棄物埋立層の早期安定性について示しています(このBOD変化のグラフは有名です)。この中では、好気性埋立についての提案も行われ、併せて「準好気性埋立」が明記されています。同時期には、福岡市の埋立地内で実施された現場スケールでの実証試験8)も行われたと報告されています。これらの研究を通し、準好気性埋立構造が短期間に確立したといえそうです。
図2 埋立構造の分類7)
図3 埋立プラント(実験模型層:1972試験開始)と結果の例7)
埋立地における地下水汚染に関する研究もおこなわれ、例えば大西ら9)は、当時、先端的だった有限要素法を用いた浸透水流動解析を行っています。既に当時でも簡易ではありますが三次元解析まで行われていました。図4および図5に文献記載の結果例を示す。計算結果から、難透水層(遮水工)、有孔管(集排水管)の必要性を示しました。
図4 汚染物質移動メカニズム、三次元解析の結果など8)
図5 埋立地底部モデル化と有限要素法解析例8)
ここまで示したように、準好気性埋立構造の水質面からの検討、遮水工、浸出水集排水管などの科学的根拠を持った研究成果を基にした提案が取り入れられて、国の基準として初めて設定されたものが、「最終処分場に係る技術上の基準を定める省令(基準省令:共同命令), 1977(昭和52)年」と考えられます。
同時期の水質関連の研究としては、田中らにより制御された小型模型層を用いた検討により準好気性構造でのBOD、COD低下についてで示され (図6)10)、松藤らにより微生物の面から一般細菌の変化をが示した検討11)なども行われました(図7)。
図6 模型槽を用いた検討例9)
図7 一般細菌変化10)
これまで、準好気性埋立構造に関する初期の研究について紹介した。この頃までの研究により、最終処分場の構成、主要な要素技術について整理され、埋立計画・埋立工法としてとりまとめて報告されました12)。研究概要などで確認できる期間としては、1972-1982で準好気性埋立構造の技術確立がなされたといえます。さらに1980年代後半には、準好気性埋立での廃棄物安定化に関する研究も増えていきました。
黎明期の少し後(発展初期)
埋立地ではガスが発生することからガス抜き管が設置されますが、1980年代には埋立地内のガスについても検討が進み、ガス流動の基礎方程式を作ることによりガス抜き管の集ガス率や設置間隔の検討が始まった13)。概念的な例として、処分場のモデル検討例を図8に示します。
図8 ガス抜き管の検討例13)
また、1980年代に入ると埋立物中の有害物質にも着目した研究が報告されています。一例を紹介しましょう。1980年代には、徐々に焼却残渣も増えてきており、それまでの有機物を多く含む廃棄物、焼却残渣、不燃ごみなどが混合されて埋められるようになって、その状態での好気性、嫌気性条件での有害物質(カドミウム)挙動の検討も行われた。ここでは模型槽を用いた埋立実験と、化学平衡モデルを用いた計算との比較も行われました14)。処分場での有害物質挙動に関する調査も実施され、浸出水処理の重要性も示されました15)。このような研究例から、先々の飛灰処理方法の研究などへ発展していったようです。
黎明期~発展初期の様々な研究が、その後の多くの研究者の検討につながり、現在の日本の埋立地が確立されたといえるでしょう。また、福岡方式の国際的広がりとしてはJICAを通じて主に松藤により、広く技術展開が行われました。
図9 焼却残渣を含む模擬埋立層とモデル計算例14)
おわりに
今回、体系立てた解説というより、いくつかの断片的な話題をたどってみました。とりとめのない文献紹介になってしまったかもしれません(紹介にもなっていないかもしれません)。偉大な諸先輩方の短期間の研究により、世界でも珍しい日本の準好気性埋立構造が開発されたということを知っていただければと思います。紹介した準好気性埋立構造の開発の黎明期から発展初期以降、多くの研究者によるたゆまぬ研究が続けられており、膨大な論文・概要等が存在します。遮水工の技術が発展する過程、有害物質除去技術の関連、直近では炭素固定など、興味深い検討が多数あります。機会があればAIなど活用して整理するとまた面白い発見があるかもしれません。機会があれば、皆様も古い文献を眺めて温故知新の沼にはまってみませんか。
1)例えば,田中信壽:循環型社会に向けた埋立処分研究の展望,土木学会論文集No. 720/VII-25, 1-14, (2002)
2)例えば,松藤康司:準好気性埋立(福岡方式) 開発秘話,廃棄物資源循環学会誌,Vol. 28, No. 2, pp. 149- 153, (2017)
3)福岡市HP:準好気性埋立構造「福岡方式」と国際環境技術協力の経緯,https://www.city.fukuoka.lg.jp/kankyo/shisetsu/hp/gijutsu-kyouryoku.html
4)花嶋正孝,林田竹雄:埋立ゴミの分解過程の考察、昭和42年度土木学会西部支部研究発表会論文集、p145-148(1968)(インターネット上確認無し、印刷物のみ)
5)花嶋,吉田,松藤:都市ごみ埋め立て処理処分,都市と廃棄物,2巻,4号(1972)(文献7)引用文献、国会図書館所蔵なし)
6)花嶋正孝:廃棄物埋立の変遷と動向 - 第 26 回廃棄物処理対策全国協議会全国大会講演概要集, (1975)(インターネット上では引用文献名のみ,文献1)引用文献、国会図書館所蔵)
7)花嶋正孝,松藤康司:廃棄物埋め立てにおける生物学的アプローチ ー埋立構造とその変遷―, 土と微生物,第19巻p.51-63(1977)
8)花嶋正孝,松藤康司,長野修治:現場スケールによる好気性埋立, 第27回廃棄物処理対策全国協議会全国大会講演集(1976)(インターネット上では引用文献名のみ、文献1)引用文献、国会図書館所蔵なし)
9)大西和栄,花嶋正孝,黒木健実,山﨑惟義,松藤康司:廃棄物埋め立てによる土壌地下水汚染防止に関する研究,環境問題シンポジュウム講演論文,6 巻 p. 36-41(1978)
10)田中勝,花嶋正孝,松藤康司,他:廃棄物の埋立処分に関する基礎的研究-環境影響予測のための実験的手法,環境問題シンポジュウム講演論文集,6巻p. 29-35 (1978)
11)松藤康司,花嶋正孝,山崎惟義:埋立構造と微生物,衛生工学研究討論会講演論文集,16 巻 p. 117-125(1980)
12)花嶋正孝:一般廃棄物の埋立計画と埋立工法,環境技術Vol.11No.4, p.245-253(1982)
13)山崎惟義,花嶋正孝,長野修治,大西和栄:廃棄物埋立場におけるガス抜き管の配置密度に関する研究,衛生工学研究討論会講演論文集,18 巻 p. 192-198 (1982)
14)土手裕,田中信壽,神山桂一:模擬埋立実験による廃棄物埋立層内におけるカドミウムの化学的挙動に関する研究,衛生工学研究論文集,第25巻、p.21-27(1989)
15) 花嶋正孝:廃棄物埋立場における有害物質の挙動,水質汚濁研究,13 巻 3 号 p. 150-154 (1990)


