2025年秋号表紙

資源有効利用促進法の改正について

経済産業省 イノベーション・環境局 GXグループ 資源循環経済課

 

1.はじめに

 我が国は、1991年に制定した「再生資源の利用の促進に関する法律(リサイクル法)」を皮切りに、「1999年循環経済ビジョン」や2000年に成立した「循環型社会形成推進基本法」など、世界に先駆けて循環型社会への移行に取り組んできた。 当時は最終処分場の逼迫、大量廃棄・不法投棄が社会課題化しており、「1R(リサイクル)」から「3R(リデュース、リユース、リサイクル)」を進める議論が活発になった。2001年には「資源の有効な利用の促進に関する法律(3R法)」を施行し、3R政策を総合的に推進することで、国内における最終処分量は減少し、各種の個別リサイクル法の下でのリサイクル率は大きな進展を見せた。


他方で、昨今、グローバルな経済社会の変化として、ロシア・ウクライナ危機等を背景とした資源制約・リスク、途上国での消費拡大に伴う廃棄物問題、地球温暖化や海洋プラスチックごみ問題といった環境問題等が顕在化している。これらを背景に、これまで廃棄物の適正処理という観点に重きを置いていた資源循環の考え方が、廃棄物にする以前に資源としてどのように市場の中で循環させていくかという観点へと着眼点が移行している。単に環境問題に注目していたこれまでのリサイクル政策から、地政学的リスクや環境問題の先鋭化などを踏まえた循環経済政策へと変容してきている。

2.法改正の背景

 世界的な資源需要の増大、環境制約の高まり、そして経済安全保障や経済成長の観点から、循環経済の実現が急務となっている現在において、我々は3つの大きな問題に直面している。

 第一に、資源制約とリスクの問題がある。世界全体のマテリアル需要が高まっている一方、資源の供給が全く追いつかないという状況が予見されており、加えて、一部の資源の供給が特定国に集中しているため、調達リスクが高まっている。また、海外では既にサーキュラーエコノミーへの移行に向けた動きが加速化しており、欧州では、欧州委員会主導による強制力のあるサーキュラーエコノミー関連規制の導入による市場形成が進んでいる。中国やインドネシアなどの国では、レアアースを始めとする資源の輸出規制が始まっており、レアメタルや再生プラスチックといった再生材において、世界で資源の争奪戦が行われていることから、先進国の中でも資源の自給率が低い日本においては、早急に対策が必要である。

 第二に、環境制約の問題である。廃棄物処理の困難性が増していることに加え、化石資源の3割強が、マテリアルの製造に利用されていることを踏まえると、カーボンニュートラル実現の観点からも、二酸化炭素の排出が少ない再生材の利用が急務となってきている。循環資源(再生材・再生可能資源(木材・木質資源を含むバイオ由来資源)等)の中には、2割から9割程度の二酸化炭素排出削減効果を有する資源があり、また、長期利用やサービス化を通じてさらなる排出削減を見込むことができることから、二酸化炭素の経済効率的な削減のためには、循環資源の利活用やビジネスモデルの見直しが効果的である。


 第三に、経済活動への影響である。資源を国内で循環させずに輸入依存になれば、国富の流出や国内物価上昇のリスクが増大しかねない。また、欧州では一定比率の再生材の利用を求める市場創造型の規制の導入が進み、世界的な企業もブランド価値向上の観点から再生材利用を加速している。こうした世界の環境変化に対応することができなければ、世界の市場や国際的なサプライチェーンから取り残され、再生材調達や廃棄物処理も海外依存になる可能性がある。

3.法改正のポイント

 上記の背景を踏まえ、経済産業省では、産業構造審議会イノベーション・環境分科会の下に設置した資源循環経済小委員会において、動静脈連携の加速に向けた制度整備に関する議論を2023年秋より実施し、2025年2月に制度見直しに関する取りまとめを行った。


 取りまとめの内容を踏まえて、再生材の利用拡大や環境配慮設計の可視化・価値化等を促進していくため、第217回通常国会に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律及び資源の有効な利用の促進に関する法律の一部を改正する法律案」を提出し、2025年5月28日に成立した。改正法の主な改正事項は図のとおり、①再生資源の利用計画策定・定期報告、②環境配慮設計の促進、③GXに必要な原材料等の再資源化の促進、④CE(サーキュラーエコノミー)コマースの推進である。

①再生資源の利用計画策定・定期報告は、脱炭素化を促進するために利用することが特に必要な再生資源(脱炭素化再生資源)を原材料として利用することが特に必要な製品(指定脱炭素化再生資源利用促進製品)を指定し、当該製品の生産量又は販売量が一定以上の製造事業者等に対して、計画の作成及び定期報告を求める。これにより、再生資源の利用をモニタリングする仕組みを構築し、必要に応じて再生資源利用の改善を促していくことで、再生資源の利用拡大を促していく。具体的には、脱炭素化再生資源として再生プラスチック、指定脱炭素化再生資源利用促進製品として自動車、家電4品目、容器包装(食品(飲料PETボトル除く)や医薬品を除く)を指定する予定である。
 

②環境配慮設計の促進については、ライフサイクル全体を見据えた環境配慮設計が特に優れた製品設計の認定制度を創設することで、環境配慮設計の全体レベルの底上げを図る。認定製品については、国による公表と周知、グリーン購入法における国の調達の基本方針における配慮等を行う。
 

③GXに必要な原材料等の再資源化の促進について、現制度では、小型リチウム蓄電池やその使用製品(指定再資源化製品)のメーカー等に、リチウム蓄電池の回収・再資源化を求めているが、回収率が依然として低い。その理由として、回収再資源化の実施状況をモニタリングする仕組みとなっていない点や、広域回収には個別の自治体の許可が必要で回収スキームが構築しにくい点、小型リチウム蓄電池を取り外せない一体型製品が増加している点などが挙げられる。さらに近年、リサイクル・廃棄物処理の現場で小型リチウム蓄電池起因の発火事故が増加しており、社会問題となっている。こうした背景から、メーカー等による回収率の向上を促進するために、高い回収目標等を掲げ、認定を受けたメーカー等に廃棄物処理法の特例(適正処理の遵守を前提として業許可不要)を講じる。さらに、自主回収・再資源化の対象製品として、発火リスクの観点から、リチウム蓄電池と一体型製品である電源装置、携帯電話用装置、加熱式たばこデバイスを新たに追加指定し、その回収率向上を図る予定である。
 

④CEコマースの推進については、シェアリングやサブスクリプション、リユース等のCEコマースの健全な発展と活性化を目的に、CEコマース事業者の類型を新たに位置づけ、資源の有効活用や消費者の安全といった観点から満たすべきCEコマースビジネスの基準を設定する。

4.資源循環経済の確立に向けた政策展開

 経済産業省では、「成長志向型の資源自律経済」の確立を目指し、資源有効利用促進法の改正に加え、産官学の連携、および投資支援の取り組みを進めている


 産官学の連携について、サーキュラーエコノミーへの非連続なトランジションの実現に当たっては、個社ごとの取組だけでは経済合理性を確保できないことから、関係主体の連携による協調領域の拡張が必須である。持続的かつ継続的な活動のためには、ビジネスとしての経済合理性と、特に回収・リサイクルの段階における地域の協力が不可欠であることから、経済産業省・環境省では、経済団体、企業、自治体、大学等が参加するサーキュラーパートナーズ(略称:CPs)を立ち上げ、本年9月時点で、約750者の参画を得ている。CPsでは、我が国におけるサーキュラーエコノミーの実現に必要となる施策について検討を進めており、具体的には、2030年、2050年を見据えた日本全体や製品・素材ごとのビジョンや中長期ロードマップ、サーキュラーエコノミー情報流通プラットフォームの構築、自治体をコアにした地域循環モデルの検討を行っている。加えて、国際標準化・国際連携についても今年度検討の枠組みを新たに立ち上げ、サーキュラーエコノミーの国際的なルール形成にも取り組む。

 

  投資支援については、2023 年 12 月に公表した GX 実現に向けた投資促進策を具体化する 「分野別投資戦略」において、資源循環分野では10年間で、官民あわせて2兆円超の規模の投資の実現を目指すこととしている。GX経済移行債を活用し、再生材利用や長寿命化、再資源化の容易性の確保等につながる「環境配慮型ものづくり」や、CEコマースビジネス発展のための技術開発、実証及び商用化に係る設備投資支援を行っており、CPsを活用しながら2025 年度からの3年間で100 億円の支援を実施している。

5.おわりに

 世界では、廃棄物問題や気候変動問題等の環境制約に加え、世界的な資源需要と地政学的なリスクの高まりといった資源制約の観点から、サーキュラーエコノミーへの移行が喫緊の課題となってきている。我が国においても、これまで主に廃棄物処理や3Rの観点で進めてきた資源循環を経済活動として進めていく意義が高まっている。

 ただ、個社単位での取組ではリニアエコノミーでの部分最適に留まることから、サーキュラーエコノミーでの全体最適の実現のためには、関係主体が連携し、ライフサイクル全体で取り組む必要がある。つまり、設計・製造段階、販売・利用段階、回収・リサイクル段階をシームレスに繋ぎ、動脈産業と静脈産業が有機的に連携する「動静脈連携」による取組が要諦である。経済産業省では、関係主体の協力を得て、引き続き資源循環を促進していく。

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