浸出水処理施設の管理経費とCO2削減について
1.はじめに
福岡大学名誉教授
樋口壯太郎 氏
脱炭素化社会の実現に向けて国際的に取り組みがなされている。廃棄物処理分野からの温暖化ガスの排出は焼却に伴うCO2ガスの排出、最終処分場からのメタンガス排出等が挙げられる。我が国は世界に先駆けて焼却処理等中間処理による減量化、無害化を行い、残渣を埋立処分することを廃棄物管理方針としたため最終処分場に埋立処分される廃棄物は焼却残渣を中心とする無機性廃棄物が多く、最終処分場からのメタンガスの排出量は他国に比べて圧倒的に少なく、埋立地からのガス発生量は少なく、定量化も困難である。最終処分場から排出される温暖化ガスは埋立作業中の運搬車両や重機稼働に伴う燃料消費、浸出水処理施設稼働に伴う電力、薬品消費が中心となる。我が国の浸出水処理は高度化し、脱塩処理を行うケースもあり、大量の電力を消費するとともに飛灰に含まれるカルシウムが処理機器や配管にスケールとなって付着し、処理阻害となるため大量の薬品(炭酸ナトリウム)を投入し、大量の汚泥(炭酸カルシウム)を生成する。一般的な浸出水処理施設から発生する汚泥の約70%を占めている。今回、このカルシウム問題に着目し、汚泥発生抑制による薬品費等管理費と温室効果ガス削減対策について紹介する。
2.我が国の浸出水処理
浸出水処理施設は埋立ごみの質により、高濃度BODを処理する生物処理からはじまり、生物処理で分解できない難分解性有機物を処理するために凝集沈殿が加わり、色度を除去するためにろ過、活性炭処理、埋立ごみに焼却残渣が加わると、カルシウム除去のためライムソーダ法による凝集沈殿が付加されるようになった。さらに焼却残渣の埋立割合が増加すると塩化物イオン濃度が上昇し、処理水放流先で農業用水に利水されている場合に農業被害を生ずる懸念がある地域については脱塩処理が行われるようになった。このように我が国の浸出水処理は問題が生起するために対応策として付加技術を講じる方式で、対症療法的に発展し、現在の処理スタイルが形成された。現在の一般的な浸出水処理フローを図1に示した。カルシウム除去、生物処理によるBOD酸化、窒素処理および凝集沈殿処理、砂ろ過、活性炭によるCOD、色度、SSの処理であり、これは1970年代に形成された処理である。一部では前述したとおり、電気透析膜法(ED)や逆浸透膜法(RO)による脱塩処理を付加した形で処理が行われているケースもある。
図1 一般的な浸出水フロー例
3.浸出水処理施設の管理費、CO2発生量
図1の浸出水処理フローについて管理費(電力費、薬品費)およびこれに基づくCO2発生量例を試算した。 試算に当たり処理能力は100㎥/日とし、原水および処理水質を表1のように設定した。この条件に基づき、施設規模計算、設備設計計算を行い、電力消費量、凝集剤や中和剤等薬品代等管理コストを計算し、さらに排出係数を乗じて、処理プロセス別にCO2排出量を計算した。その結果を表2および図2に示した。
表2 管理費、CO2排出量
図2 処理プロセス別管理費とCO2排出
表1および図2より、100㎥/日の浸出水処理施設管理コストは年間58,900千円、CO2発生量は664t/年であり、管理コストの約45%、CO2発生量の約20%はCa除去工程で占められている。Ca除去工程から発生する汚泥は全体汚泥の約70%を占め、汚泥脱水コストも70%はCa汚泥で占められている。これはCaの除去は次式のライムソーダ法により行われ、Caイオン1g(以降、Ca2+)を除去するために2.6gの炭酸ナトリウム(以降、Na2CO3)を添加し、2.5gの炭酸カルシウム(以降、CaCO3)汚泥が発生するため、大量の薬品費と汚泥処理費が必要となるためである。
Ca+Na2CO3→CaCO3+2Na
ばいじんや飛灰を埋立てると浸出水中のCa2+は高濃度化し、排ガス規制強化により、上昇傾向にある。今回は表1よりCa2+は2,500mg/Lを想定しており、ばいじんや飛灰を埋立てる最終処分場では標準的な値である。
4. 薬剤変更による高濃度カルシウム対策
ライムソーダ法は大量のNa2CO3を使用し、大量のCaCO3汚泥が生成する。このため浸出水処理施設全体の管理コストの約45%とCO2排出量の約20%を占めることになる。そこで管理コストやCO2排出量を低減化する方法を検討した結果、Ca分散剤による方法が効果が高いことを実験等により確認できた1)。Ca分散剤は従来からボイラー、冷却水系機器、焼却施設等で使用されている。アクリル酸系ポリマー等のCa分散剤を添加すると、陽イオンと陰イオンの結合を阻止し、各イオンは水中で安定化し、スケール析出が抑制される。また析出したスケールを分散化する機能を有する2),3)。実浸出水原水のCa2+濃度2,200mg/Lに対して、分散剤1mg/Lを添加した。添加後のCa2+は2,150mg/lで、この水を直接、電気透析膜に通したが、イオン交換膜、電極へのスケール付着はなかった。電気透析膜法の場合、Ca2+は濃縮塩中に移行し、分散効果は継続し、スケール生成は見られなかった。
Ca除去をライムソーダ法からCa分散剤に切り替えた場合の処理フローを図3に、表3に管理費とCO2排出量を表3と図4に示した。
図3 Ca除去薬剤変更時の処理フロー例
表3 Ca分散剤切り替え時の管理費とCO2排出量
図4 Ca分散剤使用時の処理工程別管理費、CO2排出比率
表3および図4より、Ca分散剤使用時の100㎥/日の浸出水処理施設管理コストは年間29,257千円(ライムソーダ法の年間58,900千円の49.7%)CO2発生量は472t/年(ライムソーダ法の664t/年の71%)であり、管理コスト、CO2排出量共に低減化することが可能となる。Ca除去の部分については分散剤使用により管理費、CO2排出量とも、全体の0.1%と大幅に削減することが可能である。図5に100㎥/日の浸出水処理施設全体のCa対策の違いによる管理費とCO2排出量の比較図を示した。
図5 Ca対策の違いによる管理費、CO2排出量の違い
この違いは薬剤添加量とコストの違いから生じている。筆者の調査によれば直近のCa除去剤 Na2CO3の単価は150円/kg、Ca分散剤は1,400円/kgでCa分散剤価格はNa2CO3の
9.3倍する。しかし使用量からコストは以下のとおりである。
Na2CO3は100㎥/日×2,500mg/L ×2.6×10-3g/kg×150円/kg =97,500円/日
Ca分散剤は100㎥/日×1mg/L×10-3g/kg×1,400円/kg =140円/日
※薬剤単価はこの数年、上昇傾向にあるため、最新の調査を実施する必要がある。また排出係数はNa2CO3は0.413kg-CO2/kg、Ca分散剤は非公開のため主原料であるアクリル酸1.1kg-CO2/kgを使用した。
一方でNa2CO3を用いた従来のアルカリ凝集沈殿は1970年代に開発されたが、焼却排ガス規制がはじめられた時期で、重金属類対策としての重要な機能を有している。現在は飛灰の安定化処理が行われ、浸出水の重金属リスクは低いとはいえ、これに配慮した対策として、キレート吸着等の検討は必要である。
4.おわりに
前述したように我が国の浸出水処理システムは経済高度成長時代に増加するごみ問題、最終処分場問題に対処するため、対症療法的、事後処理的に形成されてきた。これは浸出水処理システムに関わらず他の社会基盤施設等全般に言える。廃棄物処理法が制定されて50年以上が経過した現在、これらの技術を見直す時期に来ている。それにより今回のようなコストを低減化し、脱炭素化社会に適合した最適なシステムが再構築される。すなわちレトロスぺクティブ・テクノロジー・アセスメント(Retrospective Techinology Assessmennt)、RTAが必要である。
参考文献
1)樋口壯太郎他:「最終処分場におけるPFASの挙動と対策に関する研究」、都市と廃棄物、Vol.55,No.5 ,pp47-54(2025)
2)栗田工業薬品ハンドブック:第4章スケールとスケール防止、pp41-67,栗田工業㈱(1995)
3)カレントアップT-203安全データシート、SDS No.33515,栗田工業㈱(2017)


