2026年夏号表紙

我が国における循環経済への移行と日本循環経済パートナーシップ(J4CE)の役割

(公財)地球環境戦略研究機関(IGES)

持続可能なファイナンス・ビジネスタスクフォース 

副ディレクター/シニアプログラムマネージャー 京極 智子 氏


*なお、本稿における意見や見解は執筆者個人のものであり、所属する機関の公式な見解を示すものではない。

1. はじめに

(公財)地球環境戦略研究機関(IGES) <br>持続可能なファイナンス<br>・ビジネスタスクフォース<br>副ディレクター/シニアプログラムマネージャー<br>京極 智子氏 (公財)地球環境戦略研究機関(IGES)
持続可能なファイナンス
・ビジネスタスクフォース
副ディレクター/シニアプログラムマネージャー
京極 智子氏

 我が国においては、近年、「循環経済(サーキュラーエコノミー、以下「CE」)」への移行を国家戦略として位置づけ、従来の「3R(リデュース・リユース・リサイクル)」から、付加価値を創出する成長志向型の経済システムへの転換を加速させている。本年6月に閣議決定・公表された「令和8年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(環境白書)」では、その第一部で「循環経済(サーキュラーエコノミー)で日本列島を強く豊かに」をテーマに、昨今の循環経済をめぐる国内外の状況、施策等を概説するとともに、2026年4月に決定した「循環経済行動計画」に沿って、CEへの移行を加速し、日本としての「勝ち筋」を見出すこと等が示されている1

 環境白書にも示されているように、従来の「採取・製造・大量消費・大量廃棄」を一方向のフローとする「線形経済(リニア・エコノミー)」は、資源の有限性、気候変動、生態系の破壊といった地球規模の限界に直面しており、これに対し、資源の投入量・消費量を抑えつつ、既存のストックを有効に活用し、リユースやリペアといった方法による製品の長期利用の促進、リサイクル等を進め、廃棄物を資源として活用することなどを通じて付加価値を生み出し続けるCEへの移行は、持続可能な経済活動を維持するための世界共通の不可避な課題となっている。

 日本においても、CEは、環境政策の枠組みとしてのみならず、産業競争力の源泉、そして中長期的な経営戦略の核として捉えられるようになってきている。CEへの移行は、単なる廃棄物の「適正処理」や「3R」の延長線上にあるものではなく、川上の製品設計から川下の静脈システム(回収・選別・リサイクル)に至るまで、サプライチェーンに関わる全ての主体が連携し、新たな経済価値を創出するビジネスモデルの変革を後押しするものである。

 こうした背景を持つCEの考え方が我が国において大きく主流化する以前に、産業界と行政が緊密に連携し、日本の資源循環の取組を加速させることを狙いとして創設されたのが「循環経済パートナーシップ(Japan Partnership for Circular Economy、以下「J4CE」)」である。本稿では、J4CE創設の背景と創設当初の狙いを整理した上で、これまでの活動実績や、2025年度末に公表された新たなフェーズとなる「J4CE 2.0」の展望を紹介する。


[1] 令和8年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/r08/pdf/full.pdf

2. J4CE創設の背景とその取組

2.1. 創設の経緯

 J4CEの直接的な起点となったのは、2021年1月20日に開催された環境省と日本経済団体連合会(経団連)との懇談会である2。この懇談会において、国内外でのCEをめぐる潮流の加速化に対応し、日本企業の国際的なプレゼンス向上と中長期的な競争力強化を図るため、官民連携によるプラットフォームの立ち上げが合意された3。その後、具体的な取組内容や参加メンバーの準備・調整を経て、同年春の正式発足に向けた活動が本格化した4。そして、同年3月2日から3日にかけてオンラインで開催された「循環経済ラウンドテーブル会合」(環境省及び世界経済フォーラム(WEF)との連携により開催)のタイミングに合わせ、環境省、経済産業省、経団連の3者を創設団体として、J4CEが正式に発足した5
 当時の小泉進次郎環境大臣は、同会合において、「脱炭素社会の達成のためには循環経済への移行が必要不可欠である」と述べ、脱炭素と資源循環を一体の施策として進める中で、経済産業省および経団連と「J4CE」を立ち上げ、官民連携で資源循環を強力に推進していく方針を国内外に示した6。また、移行を具現化する手段として、持続可能な製品設計を促進するための新法案(プラスチック資源循環促進法)の国会提出予定(当時)や、環境配慮企業への金融を後押しするガイダンスの公表に触れ、制度と金融の両面からCEを後押しする姿勢を示した7


[2] 「小泉環境相との懇談会を開催 -「循環経済パートナーシップ」設立で合意」(週刊 経団連タイムス2021128No.3485)(https://www.keidanren.or.jp/journal/times/2021/0128_01.html

[3] 「循環経済パートナーシップ」の立ち上げに関する合意について(https://www.keidanren.or.jp/policy/2021/008.pdf

[4] 同上。

[5] 環境省報道発表資料「循環経済パートナーシップを立ち上げました」(https://www.env.go.jp/press/109225.html

[6] https://jp.weforum.org/stories/2021/02/kara-hesa-kyura-ekonomi-raundote-buru-sesshon/

[7] https://www.env.go.jp/press/109254.html https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/003620420210225001.htm 

2.2. J4CEの狙いとのその取組:官民対話、ネットワーク形成、情報発信 8

(出典:「循環経済パートナーシップ(J4CE)2022年度 活動報告」9

 

 J4CEの狙いは、「国内の企業を含めた幅広い関係者における循環経済へのさらなる理解醸成と取組の促進及び循環経済への流れが世界的に加速化する中での国際社会におけるプレゼンス向上を目指し官民連携を強化する」こととされた。この趣旨に沿った具体的な取組として、①循環経済に関する日本の取組事例の収集と国内外への発信・共有、②循環経済促進に向けた対話の場の設定、③循環経済に関する情報共有やネットワーク形成、の3つの柱が掲げられた。

 


[8] 本章では、J4CE各年活動報告書(https://j4ce.env.go.jp/publications)を参照した。

[9] https://j4ce.env.go.jp/publications/J4CE_2022_Houkoku.pdf 

① 日本の取組事例の収集と国内外への発信・共有

 この具体的な成果として挙げることができるのが、日本企業のCEに関する取組を国内外へ紹介する「注目事例集(Noteworthy Cases)」の発刊である。これまで、2021年度、2022年度、2024年度と、計3回発刊されており、J4CE参加企業が展開する多様な取組事例を紹介している。各年度の事例集においては、必ずしも循環経済の分野すべてを網羅的にカバーするものではないものの、すでに実績のある技術やビジネスモデル、将来に向けた研究開発や連携の取組など、J4CE参加企業から寄せられた注目度の高い事例などを紹介しており10、特に、2024年度版では、同年度のJ4CEの活動方針とされていた「事業者間連携事例の構築・推進」の実現に向けて、「サーキュラー・エコノミーに関する事業者間連携」をテーマに、幅広いステークホルダーとの連携や、その連携を支えるデジタル技術を活用した連携の取組などを紹介している11。また、この注目事例集は、すべて英文に翻訳して公表しており、COP12やその他の国際会議等での発信などを通して、J4CEの目的の一つである日本の循環経済の促進に向けた取組の強化を発信することによる日本の国際的なプレゼンスの向上の一助となっていると言える。また、J4CEの事務局を担うIGESに対し、J4CEの活動紹介を契機として意見交換の依頼や、関連する企業に対する登壇依頼なども寄せられており、こういった点にも国際発信の成果が表れていると評価できる。

② 循環経済促進のための対話の場の設定

 J4CEの具体的な取組の第二に挙げられるのは、実務を担う「民(産業界)」と、制度を設計する「官(関係省庁等)」との「直接的な対話の促進」である13
 日本は、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法、自動車リサイクル法をはじめとする各種リサイクル制度のもと、廃棄物の適正処理と排出抑制において実績を積み上げてきた。しかし、これらの仕組みは、発生した廃棄物をいかに効率的に処理・リサイクルするかという「処理段階」での最適化(ボトムアップ・アプローチ)に偏りがちであった。これに対し、CEが目指すのは、製品の設計段階からリサイクルや再製造(リマニュファクチャリング)、PaaS(製品のサービス化)を組み込む「トップダウン・アプローチ(動脈側の変革)」である。動脈企業が資源循環に配慮した設計を行い、静脈企業がそれに応じた高度な選別・処理技術を提供するという、「動静脈の有機的な連携」を確立するためには、従来の規制・被規制の関係を超え、バリューチェーン全体におけるボトルネックや課題を共有し、解決策を議論するための対話の場の設定が必要であった。J4CEには、この官と民の対話の場を提供する機能が期待されたのである。

 官民対話については、発足以来2026年2月までに、オンラインおよび対面を組み合わせた形式で、合計21回実施されており、そのテーマは、CEにかかるコストに関するディスカッション、自治体との連携事例の紹介、デジタルを活用した異業種間での動静脈連携の取組の紹介など多岐にわたる。また、CEに関連する国内規制等の内容説明や国際動向など、関係省庁からのその時々における最新の情報提供も行われた。官民対話では、これらに加え、参加者同士のパネルディスカッションの実施を通じて様々な意見交換がなされ、日本におけるCE促進の貢献の一つの形となったと言える。

③ 循環経済に関する情報収集やネットワーク形成

 また、発足当時、まだまだCEについての理解の不足があるという認識の下、企業間の情報交換・ネットワーク形成の場としての機能もJ4CEには期待された。発足当初はコロナ禍であったため、上述の官民対話もオンラインが中心であったが、2023年9月には対面型のビジネス交流会が実施された。ビジネス交流会では、J4CE参加企業および環境スタートアップ大賞14等を受賞した企業計15社によるショートプレゼンテーションが行われ、130名を超える関係者が出席し活発な交流が行われた。また、2024年度には、CEビジネスの促進や動静脈企業を含む事業者間連携の強化を目的とした対面によるワークショップが初めて実施された。ワークショップでは、プラスチックや金属などの素材や業種ごとのグループに分かれ、事業者間連携を阻む原因や課題および連携促進のための対応策について活発に意見交換が行われ、異業種間での課題共有や相互理解を深める一助となった。対面型ワークショップは2025年度にも実施され、参加者間での活発な意見交換が行われた。対面でのビジネス交流会やワークショップでの交流を契機として事業者間連携が進み、実際のプロジェクトの成立に至ったり、日本で技術開発したCEビジネスの欧州展開が進展する例も出てきており、こういった点においても、J4CEの企業間ネットワーク形成・事業者間連携のプラットフォームとしての成果が表れていると言えよう。
 また、2025年度には、より具体的な実務レベルでのボトルネックを解消するためのより小規模なワークショップも開催された。本ワークショップは、環境省の主催及びIGESと産業廃棄物処理事業振興財団の企画運営のもと、プラスチック再生材の質の向上を目指した事業者間連携の促進や、建設業界・繊維業界における回収や物流の広域化・集約化・高度化・効率化などに焦点を当て、関連する企業が参加し、動脈企業と静脈企業の双方が抱える課題やその解決方法などを活発に議論する場となった。
 


[10] 注目事例集2021 Edition はじめに(https://j4ce.env.go.jp/top/J4CE注目事例集2021.pdf

[11] 注目事例集2024 Edition はじめに(https://j4ce.env.go.jp/publications/J4CE_2024_NoteworthyCases_J.pdf

[12] 国連気候変動枠組条約締約国会議の略。

[13] なお、発足当時環境大臣であった小泉進次郎氏は、後年、それまで必ずしも距離が近くなかった環境省と経団連が、環境と経済が一体化した時代に対応するためにあえてパートナーシップを結んだことが、J4CEの根底にあると述べている。(https://www.alterna.co.jp/49316/) 

[14] https://www.env.go.jp/page_01214.html 

3. 新たなフェーズ「J4CE 2.0」の公表

 J4CEは、2021年の発足から5年が経過し、J4CEのこれまでの活動を通じて、日本企業の資源循環やCEに対する「理解醸成」やその「主流化」は一定の成果を収めたと言える。そして、実証から「社会実装(ビジネスとしての自立)」へと移行するため、J4CEでは、2026年2月、新たな活動方針として「J4CE 2.0」を公表した15。J4CE2.0では、この5年間の活動を通して、発足当初の活動目標については一定の成果を上げることができたと評価し、今後は、さらなる日本全体の循環経済活動の発展に向けて、その強みを生かしつつ、多様なステークホルダーを包摂した取組へと発展させることを目指すとした。すなわち、単なる情報交換や事例の共有にとどまらず、「事業者間連携の促進を通じた具体的なプロジェクトの創出」へとつなげていくため、さらに活動を深化させ、国際発信の強化、官民対話の日本の各地方での展開を検討している。

(出典:「循環経済パートナーシップ(J4CE)2.0 ―J4CE これまでの活動の総括と今後に向けて―」16


[15] 「循環経済パートナーシップ(J4CE2.0 ―J4CE これまでの活動の総括と今後に向けて」(https://j4ce.env.go.jp/publications/J4CE_2026_J4CE2_0.pdf

[16] 同上。

4. おわりに

 J4CEの活動は、その創設からの5年間で培われた参加企業間のネットワークや取組事例の共有による循環経済への理解の醸成とその主流化という基盤の上に立ち、より具体的な「事業者間連携によるプロジェクトの創出」と「社会実装の加速化」へと軸足を移していくことになる。J4CEの取組を通じて、日本における循環経済への移行のさらなる加速化と新たな経済成長への原動力となることを期待したい。

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