サーキュラーエコノミーに向けた廃棄物処理業界の「人」の問題(その1)
1.はじめに
国立研究開発法人国立環境研究所
フェロー 大迫 政浩 氏
人、モノ、カネ、情報等は企業経営の基本的な資源・資本であり、先人であるピーター・ドラッガーや松下幸之助が残した「組織は人なり」「企業は人なり」という言葉は、特に「人」が企業経営にとっていかに大切な経営資源であるかを示唆している。これからのサーキュラーエコノミー(CE)に向けた変化の時代にあっても、「人」は企業活動の維持・成長の最も重要な要素であるといえる。
CEを推進するために昨年制定された再資源化事業高度化法1)においては、その基本方針の中で、資源循環・廃棄物処理業界において専門的知見を有し業務を遂行できる能力と知識をもつ人材や資源循環の取組みをけん引できる人材の育成、労働力の不足を補うための外国人を育成就労制度及び特定技能制度の対象とすることの検討など、業界の基盤強化に人材の確保と育成が最重要課題であることを強調している。また、高度な再資源化事業を行う業者を判断する基準として、人材育成のための研修を行う必要があることを省令で定めており、環境省は来年度から具体的取組みを実施する予定である2)。
このように、CE推進において「人」の問題は質と量の両面で重要課題であることから、本稿ではこの問題を取り上げて、二回に渡って解説する。第一回目は、廃棄物処理業界の市場・雇用動向や職業人の育成の仕組みなどについて、欧州の情報もまじえて紹介したい。筆者は経営学者ではないので深い洞察をすることは難しく、情報提供が中心になることをご了解いただきたい。
2.廃棄物処理・資源循環産業の市場と雇用動向、業界課題
環境省による最新の推計結果3)によれば、環境産業の市場規模は2023年に130.3兆円であり、2000年の約2.1倍まで膨れ上がっており、全産業に占める割合は、2000年の6.6%から2023年の11.3%に著しく増加している。「廃棄物処理・資源有効利用分野」は環境産業の一カテゴリーであり、市場規模においても大きなウェイトを占めており、2000年の43.5兆円から2023年には64.3兆円まで増加した。図1に2023年の「廃棄物処理・資源有効利用分野」の項目別割合を示す。ウェイトの高い「リサイクル素材有効利用」や「資源有効利用製品」には、鉄や非鉄のリサイクル素材を利用した製品化や中古自動車などのリユース市場などが含まれ、「リフォーム、リペア」には自動車整備や建設リフォームが含まれている。また、「リース、レンタル」には産業機械や自動車のリース、レンタルを含むため、これらの項目は「廃棄物処理・リサイクル」に対して圧倒的に大きい規模を有している。一方、「廃棄物処理・リサイクル」は、廃棄物処理・リサイクルの「設備」の製造と「サービス」(処理事業)の提供であり、一般廃棄物や産業廃棄物の処理や個別リサイクル法に基づく処理に係る市場であり、2023年で約5.5兆円となっている。
図1 廃棄物処理・資源有効利用分野の項目別市場規模(2023年、金額の数字単位は億円)
図2 廃棄物処理業界に関連する主要項目の推移
読者の方々に関係深いと考える廃棄物処理業界関連の主要項目に絞って、2000年から2023年までの推移をグラフ化したものが図2である。「リサイクル素材有効利用」の項目では、鉄・非鉄の二次原料の商品化以外にも、動脈産業での廃棄物の受け入れ(鉄鋼業、セメント製造業、紙製造業等)が大きな割合を占めており、特に鉄鋼業での市場規模が拡大してきた。2008年から2009年にかけての不連続かつ急激な落ち込みは、リーマンショックの影響である。「廃棄物処理・リサイクルサービス」の市場規模は年々着実に増加し、その内数としての「産業廃棄物処理」の伸びがけん引している。「産業廃棄物処理」の2023年の市場規模は、約3兆円と推計されている。なお、「廃棄物処理・リサイクル設備」の変動は、ほぼ「都市ごみ処理装置」(焼却施設)の更新需要に連動している。
以上の市場を支える雇用規模の推移を図3に示す。廃棄物処理・資源有効利用分野の雇用規模は年々増加しており、特に一人当たりの売上高が他産業よりも低く労働集約型である「廃棄物処理・リサイクル」の増加が寄与している。2023年には全体で約180万人、「廃棄物処理・リサイクル」で約60万人、その内「産業廃棄物処理」は約16万人となっている。「廃棄物処理・リサイクルサービス」としての処理業は、先述のとおり労働集約型であり、労働力の量と質の確保や労働生産性の向上が企業の成長に直結する。
図3 廃棄物処理・資源有効利用分野の雇用規模推移
なお、環境省では2050年までの廃棄物処理・資源有効利用分野の市場規模の将来推計を行っている(図4)。リフォーム、リペア、リース、レンタル市場が拡大する一方、廃棄物処理、リサイクル、リサイクル素材、資源有効利用製品は飽和状態になる見通しを示している。
図4 廃棄物処理・資源有効利用分野の市場規模将来推計
しかし、事業内容の質的側面では、再資源化事業高度化法でも強調しているように、資源効率的で持続可能な事業への高度化が求められるとともに、先にも述べた通り労働集約型の業種においては、自動化やデジタル化による労働生産性向上により経済的にも持続可能な産業に転換していくことが求められる。
以上のようなこれまでの業界の推移や将来見通しにおいて、経営資源としての人材の確保と育成は必須課題である。公益財団法人全国産業資源循環連合会は、四半期ごとに業界の景況動向調査の結果を公表しているが、そのなかで産業廃棄物処理業者の経営上の問題点を調査し報告している4)。図5が最新の結果である。人材の観点からは「従業員の不足」や「人件費の増加」が第二位、三位に入っており、人材不足が成長の制約になっており、一方で人材確保のためのコストの問題も強く認識されていることがわかる。調査は選択肢方式で行われていると思われるので、「従業員の不足」がどのような人材ニーズに対するものであるかは正確には把握できないが、過去に環境省が調査した「産業廃棄物処理業における多様な人材の確保に関する調査」の結果5)によれば、人材の量と質の両面からの課題が存在する。すなわち、外国人の技能実習制度を活用した人材確保への比較的高い関心度から推察されるように、第一に労働力の量的側面のニーズがあるものと思われる。一方で、IT技術導入への高い関心が示されており、導入への課題としてIT人材確保に関わる点が多く挙げられていることから、人材の質的側面への潜在的なニーズはあると考えられ、サーキュラーエコノミーに向けてさらに多様かつ高度な人材へのニーズは高まっていくものと推察される。
図5 産業廃棄物処理業界における経営上の問題点
3.欧州の動向 6)7)
ここで、サーキュラーエコノミーをいち早く打ち出した欧州の動向について、限られた中ではあるが、少し情報提供したい。
欧州委員会は2019年に打ち出した「欧州グリーン・ディール(EGD)」を具体的に推進する政策として、2020年に第二次の「サーキュラーエコノミー行動計画」(第一次計画は2015年策定)を発表し、持続可能で低炭素かつ資源効率的な経済への転換への政策が強化された。サーキュラーエコノミーは産業政策であり、その意味で産業構造の変化を伴うが、労働資本は成長の基盤であり、サーキュラーエコノミーへの転換に労働資本をどのようにアジャストさせていくかが問われることになった。2000年に下水道・廃棄物管理・修復活動部門で90万2千人が雇用されていたのに対し、2019年には約130万人に増加した。また、Cedefop(欧州職業訓練開発センター)の技能予測(Cedefop, 2021)によれば、EGDの実施により2030年までに上下水道・廃棄物管理分野の雇用が63%以上(約96万人の追加雇用)増加する可能性がある。そのため、あらゆる技能レベルの労働者に対する需要増加が見込まれ、求められる業務内容や技能スキル、組織の在り方も変化を求められることから、人材に対する教育訓練を職種横断的に拡充する必要があるとした。
さらに、自動化やデジタル化の動きは、低技能労働者への需要を縮小させるが、管理職的・サービス志向のスキルプロファイルをもつ高度な非肉体労働者への大幅な需要を増加させる。しかし、実態とのギャップは大きいことが指摘されている。
今後のサーキュラーエコノミーに向けての変革は、多くの「従来型」廃棄物管理業務を陳腐化させ、高度なサービス志向スキルの需要を牽引し、経営者は廃棄物管理に特化したスキルに加え、横断的スキルやソフトスキルを必要とする。ただし、変化するスキルニーズは、完全に新しい職種というよりは、既存の職種を再定義し新たな業務を反映するものである。グリーンスキルやデジタル/ITスキルに加え、分析力や品質保証スキルも重要性が増すと予測している。すなわち、2030年までに需要が高まると見込まれるのは、上級・技術者レベルのIT・エンジニアリングスキル、先進的廃棄物処理技術、データ分析スキル、問題解決能力およびコミュニケーション能力である(図6参照)。
図6 廃棄物管理分野における新興職業と雇用
以上のような背景の下、欧州では職業教育訓練システムの変革を真剣に議論している。欧州の職業人材育成の仕組みは日本と大きく異なっており、日本では基本的に大学教育を修了した人材に対して就職後に企業自身が訓練を通して実務能力を育成する。一方、欧州においては、大学教育とは別に職業教育訓練(VET:Vocational Education and Training)の仕組みが存在しており、例えばドイツでは職業学校と企業内実習を組み合わせたデュアルシステムが構築されている。週の3~4日は企業で実務的なスキルを学び、企業は賃金を支払い、研修を受け入れる責任を負う。週の1~2日は州政府が所管する職業学校に通い、専門知識や一般教育を学ぶ。カリキュラムは連邦・州・産業界の三者がコミットして調整する。2~3年半の訓練期間のなかで商工会議所等による試験・認定が行われ、修了資格を取得し、労働市場で即戦力として通用する人材になる。また、最近では大学に進学する割合が増えているが、現在においても相当程度の若者がこのルートを選択している。このようなシステムが文化的に定着しているのは、法的に位置づけられた制度であり、社会的評価が高いことに依る。また、VET後に実務経験を積んだうえで「マイスター」の上位資格もあり、VETにおける指導者や会計・経営管理などの知識も身に着けた経営者候補として高い社会的地位が定着している。ドイツの廃棄物処理事業者も日本と同様に中堅・中小企業が多いが、「ミッテルシュタント(中小企業群)」と呼ばれるドイツ経済の屋台骨として評価されており、VETの人材づくりがミッテルシュタントを支える基盤となっていると理解できる。
このようなVETの仕組みにおいて、サーキュラーエコノミーに向けた廃棄物管理分野の改革への議論が行われている。主要な論点は以下のとおりである。
- 包括的な技能ガバナンスの推進
職業教育システムの設計と提供に主要な利害関係者を体系的に関与させ、技能の需要側と供給側をガバナンスする協調的アプローチが重要である。 - 雇用主の参画促進
雇用主や雇用者団体は、新たな技能ニーズに対応するため、訓練拡大を促す奨励策が必要である。規制順守に必要な訓練だけでなく、廃棄物管理職におけるより広範な技能開発モデルを検討すべきである。中小企業の雇用主が協力して行うことも効率的である。 - ダイナミックで現代的な職業教育訓練(VET)提供の可能性
職場学習への投資と一般教育・職業教育間の移動の促進は、学習プロセスを豊かにする。より柔軟な学習は、現在および将来の廃棄物管理ニーズに応えるスキル開発に寄与する。セクター横断的に高まる廃棄物管理活動の重要性とそれに伴う人材・スキル需要に対して、他のセクターのVETコース等に廃棄物管理に関するモジュールを組み込むことも効果的である。 - 訓練ニーズを満たすためのマイクロクレデンシャルまたは学習単位の開発
マイクロクレデンシャル(一般的には短期間の細かい学習単位で与えられる資格証明をいう)と連動したモジュール、特に継続的な職業教育訓練(CVET)の一環として提供することで、廃棄物管理プロセスに関連する研修ニーズに対応できる。例えば、データアナリストとしてのキャリアを準備する教育プログラムの学生向けに、廃棄物管理に関する認定モジュールを提供することが考えられる。これにより、汎用的なデータ分析スキルを廃棄物管理分野で活用可能なものにできる。 - カリキュラムにおける地域・地方の廃棄物管理ニーズの反映
廃棄物管理の問題を実践的に解決するには、まず地域ごとのニーズと課題を徹底的に理解することから始まる。EU加盟国間で廃棄物管理の実践に差異があるだけでなく、廃棄物の組成や処理方法、エコイノベーションの観点からも、地域間および地域内でばらつきが見られる。廃棄物管理の変革を推進する上で最適な解決策を見出すには、地域レベルのステークホルダーが最も適した立場にある。職業教育訓練(VET)カリキュラムに地域ニーズを反映させることは、廃棄物管理課題への対応において極めて重要である。 - 市民との連携と草の根レベルでの意識向上
地方自治体で活動する公務員は、研修の重要な対象グループである。彼らは職務において廃棄物管理手法(例:グリーン公共調達)を適用する責任を負うことが多く、また市民の間で廃棄物管理とは何か、それが地域や地方の生活環境をどう改善し得るかについての理解を深める上で重要な役割を果たす。 - 廃棄物管理分野におけるキャリア促進
廃棄物管理分野が提供する幅広いキャリア機会を若年層に積極的にアピールすべきである。廃棄物管理組織は、職業教育訓練(VET)機関やその他の教育訓練機関と連携し、若者がボランティア、インターン、研修生、または見習い(学びながら収入を得られる形態)として廃棄物管理を経験する機会を提供する必要がある。職場学習の要素は、若者が廃棄物管理分野で積極的に活動するよう促す上で特に重要である。
4.おわりに
サーキュラーエコノミーに向けた廃棄物処理業界の「人」の問題について、市場や雇用動向と業界課題、欧州、特にドイツにおける職業人材づくりの仕組みや将来に向けての論点などについて、情報を提供した。日本とドイツの職業人材について育成の仕組みは両国で大きく異なるが、日本の現状システムを前提にした体系的な仕組みづくりについて、国、地方自治体、業界、学界等の関係者で協力しながら真剣に検討すべき時期にきていると認識している。
次回は、一般論になるかもしれないが、廃棄物処理業界を担う中堅・中小企業の成長要因を考察し、経営人材の重要性とどのように強化すべきかについて考えてみたい。
(次回のその2に続く)
参考文献
1)環境省HP:資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律(再資源化事業等高度化法)、https://www.env.go.jp/recycle/waste/page_01721.html
2)環境省概算要求資料:再資源化事業高度化のための人材育成・確保事業、https://www.env.go.jp/content/000336974.pdf
3)環境産業市場規模検討会:令和6年度環境産業の市場規模推計等委託業務、環境産業の市場規模・雇用規模等に関する報告書、令和7年3月、https://www.env.go.jp/policy/keizai_portal/B_industry/index.html
4)公益財団法人全国産業資源循環連合会:産業廃棄物処理業景況動向調査結果について〔2025 年 4-6 月期(概要版)〕、https://www.zensanpairen.or.jp/activities/report/
5)環境省:令和2年度産業廃棄物処理業における多様な人材の確保に関する調査結果概要、https://www.env.go.jp/content/900533334.pdf
6)CEDEFOP: Too good to waste, Tapping the potential of vocational education and training in the waste management sector, 2022, https://www.cedefop.europa.eu/files/9175_en.pdf
7)CEDEFOP: From linear thinking to green growth mindsets, Vocational education and training and skills as springboards for the circular economy, 2023, https://www.cedefop.europa.eu/files/9184_en.pdf


